そして審判として大成する道のりが険しく長いのはメジャーでも変わらない。日本と同じく審判学校に入るのが第一歩。フロリダにあるスクールで1月から2月にかけて1カ月ほど講義を受け、そこでの成績上位者のうち2割弱しかマイナーリーグのアドバンスドコースへ進むことは許されない。ちなみに受講料はおよそ2400ドル(約26万円)。旅費や滞在費なども含めれば結構な初期投資が必要で、なおかつそれらがすべて無駄になるリスクも抱えている。

 アドバンスドコースを終えれば晴れてルーキーリーグや1Aなどで実戦経験を積むことになる。だが、それはマイナーリーガー同様の過酷な移動に次ぐ移動を繰り返す日々の始まりでもあり、それが10年以上続くことも珍しくないという。

 しかも『MiLB.com』によると、ルーキーリーグやショートシーズン1Aの審判の初任給は月給で2000から2300ドル(約22万から25万円)。3Aまで昇格してようやく月給3900ドル(約43万円)となる。だが、これでようやく一般サラリーマンとほぼ同額と思うのはまだ早い。上記の金額は月給であって年収から割り出した数字ではないのがポイント。マイナーリーグのシーズンはおおよそ4月からの5か月しかない。つまり、3Aの審判であっても年収は2万ドル(約220万円)にしかならないのだ。

 これでは家族を養うこともままならないため、メジャー昇格を目指す多くのマイナー審判たちはオフシーズンを中心に副業に励まざるを得ないのが実情だ。さらにさらに、3Aで十分な経験を積んで技量を高めたとしても、メジャー審判たちが辞めない限りは枠が空かずに昇格できないという現実も待っている。ひたすらお呼びがかかる日を薄給に耐えつつ待つしかないというのは、心中察するに余りあるというものか。

 だが、メジャー昇格を果たせば待遇が一気に改善されるのは、審判も選手たちと同様だ。給料は日割り計算で約4倍近くになり、移動の際もファーストクラスの航空券がリーグから支給される。長い長い道のりを中古車で走りながらモーテルに泊まる日常は過去のものとなり、充実した審判ライフが始まるというわけだ。

 近年はビデオ映像を駆使したリプレイ判定も導入され、今年はストライクの判定を弾道測定器に任せる、いわゆる『ロボット審判』をメジャーリーグと提携した独立リーグで開幕から試験導入するという話も出ていた(後に延期発表)。一瞬の判断で際どい判定を求められる審判にとっては、自身の過ちが白日の下で万人に晒されるという、ある意味で生きづらい世の中になっているのかもしれない。

 判定に際して意見書を提出した広島の緒方孝市監督が「審判は敵じゃない」と話したように、野球に限らずスポーツというものは選手やコーチだけでなく、審判の存在があってこそのもの。ファンも含めてお互いをリスペクトする気持ちを忘れずに、スポーツを盛り上げていきたい。(文・杉山貴宏)