その12年後、坂井はこの曲をZARDとしてセルフカバー。収録されたのは、生前最後のオリジナルアルバムだ。その発売から9ヶ月後に子宮頸ガンの手術を受け、一度は回復したものの、10ヵ月後の平成19年4月、肺への転移が確認され、再入院となった。その翌月、亡くなるわけである。

 手術を受ける前月には生前最後のシングル「ハートに火をつけて」が発売された。奇しくも、テレサと同じく結婚ソングだ。前出の「永遠の歌姫 ZARDの真実」によれば、このプロモーションビデオを撮るにあたり、彼女は珍しく自分の希望を口にした。それは、

「ドレス、着てみたいな」

 というものだ。教会を併設したレストランで純白のウェディングドレスをまとい、キャストの子供たちとカードゲームの話で盛り上がったりしながら、楽しそうにしていたという。だが、すでに体調を崩していた彼女はその夜、救急搬送され、これがオフィシャルな意味では最後の撮影になってしまった。

 それでも、入院生活のなか、彼女は詞を書くための言葉を紡ぎ続けた。前出の「ZARDよ永遠なれ 坂井泉水の歌はこう生まれた」ではこういう一節が紹介されている。

「長い人生にはどうしても避けられない道がある そんな時は黙って歩くんだョ」

 もし回復して、活動が再開されれば、これも作品に活かされたことだろう。願わくば、それも聴いてみたかった。そう思う人は数多くいるはずだ。未完の歌姫・坂井泉水は、死後もなおファンの心を惹きつけてやまない。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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