「自分がベンチにいた時に考えていたのは、何をチームに還元できるかということ。経験だったり、ポジショニングだったり、チームに与える安心感だったり。それがなくなったら自分たちの存在価値はない」と田中は語気を強める。

 彼の場合、反町康治監督から「どんな状況でも手を抜かない真のプロフェッショナル」と認められていたから、チームがJ1昇格を脅かされる危機に瀕した昨年9月からレギュラーに再抜擢され、ゴールという結果を残し、J2優勝の立役者となった。今季はJ1という高いカテゴリーで停滞するチームを浮上させられずに悩んでいるが、そこでカンフル剤になることこそ、ベテランに求められる最大の役割なのである。

 中村と大久保のいる磐田、今野と遠藤のいるガンバも現時点ではJ2降格圏転落寸前の状況にあり、ここからチームがどうなっていくか未知数な部分が多い。磐田の名波浩監督もガンバ大阪の宮本恒靖監督もここ最近は若い力を積極活用する傾向にあるものの、シーズン終盤まで同じメンバー起用を続けるとは限らない。

 どうしても勝利がほしい時に、ひと蹴りで流れを変えられる中村、ここ一番の得点力がある大久保、あるいは非凡な戦術眼を備える遠藤、修羅場にめっぽう強い今野を使わないとも限らないのだ。彼らがその限られたチャンスをモノにできれば、ベテランの存在価値を再認識させられるだろう。

 チームが順調な時は使われず、窮地に陥った時に普段以上の力を求められるのはまさに皮肉だが、有事に備えて力を蓄えておくしか生き残る術はない。プロになってからコンスタントに活躍してきた彼らにしてみれば、今の待ち時間はとてつもなく長いものに感じられるだろうが、それを乗り越えるのも、35歳以上の年長者の重要な仕事なのではないだろうか。(文・元川悦子)