もちろん、最下位だった昨年の戦力をそのまま起用しているだけではない。抜擢という意味で象徴となっているのが、近本光司と木浪聖也のルーキー二人だ。特に近本は完全にセンターのレギュラーをつかみ、リードオフマンとして欠かせない存在となっている。小柄でスピードのあるプレースタイルから「赤星憲広二世」と言われることもあるが、パンチ力に関しては赤星を上回っており、勝負強さを兼ね備えているのも大きい。

 木浪は近本ほどの前評判の高さはなかったものの、オープン戦で結果を残して見事に定位置をつかんだ。開幕直後は不振に陥ったものの徐々に調子を上げており、レギュラー候補の多かったショートの一番手として攻守に存在感を示している。この二人の新戦力が台頭してきたことでチームの雰囲気が大きく変わって見えるファンも多いはずだ。

 ここまでは矢野監督のプラス要因を挙げたが、夏場以降も上位争いを演じるための不安要素はもちろん抱えている。一つ目は昨年からの課題である得点力不足だ。大山悠輔、近本の台頭はあるものの、まだまだ糸井嘉男、福留孝介のベテランに頼る部分が多い。中谷将大、高山俊などレギュラー経験のある選手が相変わらずくすぶっており、ファームでも近い将来に中軸を任せられそうな選手は見当たらない。ベテラン二人が故障や疲労で調子を落とした時に矢野監督がどのような決断をするのかというのは、非常に大きなポイントとなるだろう。

 そして最も大きな課題は、やはり藤浪晋太郎の処遇である。首脳陣が変わったことで復活の期待も高かったが、今シーズンもコントロールに苦しみ、ここまで二軍でわずか1試合の登板のみという状態である(※5月19日現在)。思い切ってトレードに出し、中軸を打てる選手を獲得するというのも一つの手段だが、そのポテンシャルの高さとまだまだ若い年齢を考えると何とか復調させたい。

 金本前監督は打ち込まれても懲罰的に続投させるという突き放す方針で上手くいかなかっただけに、矢野監督には何とか違う方法で復調を促すことをトライしてもらいたい。いくら四死球を与えても一定のイニング数、球数までは我慢して起用し続けるというのが最も良い方法ではないだろうか。前段で高額年俸の新戦力を特別扱いしないところがプラスと述べたが、藤浪ほどの選手には特別扱いをするのも一つの方法である。

 現在の主力が調子を落とした夏場に新戦力が台頭し、藤浪が鮮やかに復活してチームを優勝に導く。そんなシナリオを期待している阪神ファンはきっと多いことだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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