特定保健用食品で特に病気の予防効果が確認されたものを特定保健用食品「疾病リスク低減表示」と呼ばれる。これ以外の「トクホ」には病気の予防や改善の効果は確認されていない。

 では、「疾病リスク低減表示」のあるトクホはどのくらいあるかというと、たった二つ。カルシウムと葉酸だけである。カルシウムは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防に、葉酸は妊婦が飲むことで子どもの先天疾患を減らす。それ以外の「トクホ」は病気の治療や予防の効果を示されていないのだ。このことは知っておいたほうがよい。

 最近、腸内細菌は注目されている。例えば、腸内細菌が肥満やアレルギー性疾患、動脈硬化、がん、それに不安障害のような精神疾患などにも関与しているといわれている(Lynch SV, Pedersen O. The Human Intestinal Microbiome in Health and Disease. New England Journal of Medicine. 2016 15;375(24):2369–79)。Clostridium(Clostridioides) difficileという菌が起こす腸炎がある。抗生物質を飲んで腸内の菌が殺されたとき、耐性菌であるC. difficileが増殖して炎症をおこすのだ。C. difficileの腸炎はこの菌を特殊な抗菌薬で殺すことで治療するが、再発例、難治例、重症化例も多い。どうしても治らないようなC. difficileの腸炎の場合、他人の便を患者の腸に移して(便移植)、治療する方法がある。他人の便をおなかに入れるなんてずいぶんと変わった治療法だが、治療効果はとても高い。腸内細菌の変化が病気を治す一例だ。

 同様に、何種類かのプロバイオティクス(Lactobacillus acidophilusなど)がC. difficileの腸炎予防に有効だと複数の臨床試験が示している。こうしたプロバイオティクスが入ったヨーグルトにも、このような予防効果が示された研究もある。

 しかし、使われている菌株やヨーグルトの種類、食べる量によって効果はまちまちなので、ヨーグルト全般でよいとは言い難い(Sánchez B, Delgado S, Blanco-Míguez A, Lourenço A, Gueimonde M, Margolles A. Probiotics, gut microbiota, and their influence on host health and disease. Mol Nutr Food Res. 2017 Jan;61(1))。日本で売られているヨーグルトでは、質の高い臨床試験がほとんどされていない。今後、こういう臨床研究が行われることが望ましい。 

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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