(c)サントリーホールディングス株式会社
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 キズナアイ、輝夜月、月ノ美兎、ミライアカリ、電脳少女シロ……。ピンときた方も「何て読むんだ?」と思った方もいるだろう。いずれも有名な“VTuber”の名前だ(ちなみに「輝夜月」は「かぐや・るな」、「月ノ美兎」は「つきの・みと」と読む)。VTuberは「Virtual YouTuber」の略で、実在のタレントではなくクリエイターや企業が作った架空のキャラクターを指す。YouTuberと同様、YouTubeをはじめとする動画サイトやSNS上でさまざまなコンテンツの配信を行っている。

 少し前なら一部の嗜好性の強い趣味を持つ人々をターゲットにした存在のように思われたかもしれないが、最近では有名企業が広告キャラクターに採用するなど、メジャーな存在としてすっかり市民権を得ているのだ。茨城県は地方自治体として初の公認VTuber「茨(いばら)ひより」を誕生させ、2018年度の効果は広告換算額で約2億4000万円に上るという。
 
 企業オリジナルの公式VTuberではサントリーの「燦鳥(さんとり)ノム」、ロート製薬の「根羽清(ねばせい)ココロ」、中京テレビの「大蔦(おおつた)エル」「キミノミヤ」あたりが代表的だろう。“企業公式”というと、彼女たちに課せられたミッションは「企業の伝えたい思いをわかりやすく消費者に伝えること」と考えがちだが、それだけにとどまらない。歌ってみた動画や大阪弁講座など、事業には直接関係ないようなコンテンツも配信している。「それで何本水が売れたのか?」「目薬の売上は伸びたのか?」と答えを急ぐようでは、今の若者の心はつかめない。この“事業には直接関係ない”ように見えることが実はポイントなのだ。

 若年層のテレビ離れが論じられて久しい。テレビCMだけでは10,20代にはアプローチできないというのが主流の考え方になった。企業や自治体がVTuberに熱い視線を送る理由はそこにある。多くの若者にとって、テレビというメディアは生活動線上に日常的にあるものではなく、生まれた頃から身の回りに情報が溢れていたため、必要だと思う情報を自分で選ぶことが当たり前になっている。ゆえに企業からの提案が通用しにくい世代といえる。そういった人々に心を許してもらうには、その人たちの文化・作法に合わせてコミュニケーションをとる工夫が不可欠で、“大人の都合”で企業や商品の自慢話ばかりを押しつけるのはナンセンスだ。逆にコンテンツのクオリティーが高く、内容が魅力的であれば、視聴者はVTuberを自然と応援し、彼女たちを応援するためであればと結果的に商品の購入にも繋がる可能性がある。

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有名企業の戦略