チーズの長期摂取は全死亡率(すべての原因をあわせた死亡率)を上げも下げもしないというメタ分析も最近あり、チーズ悪者説は過去のものになるのかもしれない(Tong X, Chen G-C, Zhang Z, Wei Y-L, Xu J-Y, Qin L-Q. Cheese Consumption and Risk of All-Cause Mortality: A Meta-Analysis of Prospective Studies. Nutrients. 2017 Jan 13;9(1))。

 もっとも、全てがポジティブなデータなのではない。例えば、チーズは精巣がんのリスクを増すともいわれており、一定の健康リスクがある(Garner MJ et al. Int J Cancer. 2003 Oct 10;106(6):934–41)。それから、加熱殺菌していないチーズはリステリアという細菌感染症のリスクにもなる。とくに妊婦のリステリア感染は重症化しやすいため、熱処理していない乳製品(チーズ含む)を妊婦が摂取するのは危険だから、やめたほうがよい。

 国内で生産されるチーズは加熱殺菌が必要とされているが、欧州のチーズなどには無殺菌チーズもある。齋藤忠夫の『チーズの科学』(講談社)によると、チーズ大国のフランスやイタリアのチーズの4分の1程度が無殺菌だそうだ。妊婦や免疫抑制者は回避したほうがよいと思う。

 また、熟成されたチーズには赤ワイン同様チラミンが含まれており、偏頭痛を悪くしたり、他の医薬品と相互作用を起こしたりする可能性もある。このように、チーズには一定の健康リスクはある。注意が必要だ。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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