日本語を話さない外国人が初めての取引相手とかだと、分かってもらえなくてもしかたがないと思えます。うまく相手に話が通じなくても、腑に落ちなくても、受け入れられます。そこでいちいち不機嫌になることはないでしょう。

 でも、お互いが通じ合った、理解しあっていると思っている、馴染みの取引相手だと、「こんなことも受け入れてくれないのか」「どうして話が通じないんだ」と不機嫌になるのです。

 あーこさん。あーこさんが考える、親や旦那さん、子供の前で不機嫌になる理由はなんでしたか?

 あーこさんの文章を読んで、「自分の自信のなさ」「自分の話の下手さ」という、自分に対する怒りも不機嫌の理由なのかと僕は想像しました。

 相手が分かってくれないことへの怒り、この人にだけは理解してもらいたいという焦り、そして、うまく伝えられない自分自身への嫌悪。この三つが、不機嫌の理由なんじゃないかと思います。

 でね、不機嫌をコントロールするというか、不機嫌にならない方法は、「分かりあうことが奇跡」と思うことだと僕は考えているのです。

 親だろうが夫婦だろうが子供だろうが、基本的に「分かりあえない」という前提でつきあうのが大切だということです。

 だからこそ、ちゃんと言葉を選ばないといけないし、言葉を尽くさないといけないし、会話することを諦めてはいけないと思っているのです。

 そして、「分かりあえない」ということが前提だから、「分かりあった」瞬間は、本当に嬉しいのです。

 人間が「分かりあう」ことが前提だと、少しでも分かりあえないと不機嫌になります。分かりあえてない状態が非常事態だからです。でも、「分かりあえない」状態が普通だと思えば、分かりあえてない状態は日常であり、スタートであっても、不機嫌になる状態ではないのです。

 僕は、昔、喫茶店で近くに座っていたカップルの女性が、「どうして分かってくれないの!」と男性に向かって叫んだ瞬間を目撃しました。僕はその声にゾッとしました。

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なぜゾッとしたのか?