だが、持ち前の俊足で広瀬の一塁送球がシューのミットに届くよりも一瞬早くベースを駆け抜け、見事内野安打を記録。この瞬間、史上最速の100安打が達成された。これには大沢監督も「あいつはプロ野球の財産や」と脱帽するしかなかった。

 さらに同28、29日の近鉄戦(日生)でも、内野安打を警戒する鈴木啓示監督が、セカンド・大石大二郎、ショート・吉田剛に中間守備、ファースト・石井浩郎、サード・金村義明に前進守備をとらせるイチローシフトを敷いた。

 28日は3打数1安打に終わったイチローだったが、翌29日は第1打席で石井の頭上を越える右前安打、第2打席は大石のすぐ横を抜けるセンター返しのタイムリー、第3打席は前進守備の逆をつく中前安打、第4打席はセーフティバントで石井の逆をつく内野安打といった具合に、シフト破りの4打数4安打。この結果、打率を4割7厘まで上げ、6月以降では史上4人目の4割打者となった。

 これもボールをギリギリまで引きつけ、野手の動きを見ながら、バットコントロールすることが可能な振り子打法の勝利と言えるだろう。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら