巨人時代の松井秀喜 (c)朝日新聞社
巨人時代の松井秀喜 (c)朝日新聞社

 2019年シーズンが開幕して約1カ月が過ぎ、毎日贔屓チームの勝敗をチェックする今日この頃だが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「シフトに挑んだ男たち編」だ。

【写真】イチローが「本当の天才」と言った男とは?

*  *  *

 今季は日本ハム・栗山英樹監督の吉田正尚シフトが話題を呼んでいるが、過去にも“王貞治シフト”に代表されるように、強打者をターゲットにした〇〇シフトが何度となく敷かれているのは、ご存じのとおりだ。

 パリッシュといえば、ヤクルト時代の1989年にセ・リーグの本塁打王に輝き、“ワニを食べる男”としても話題になった。この“ワニパワー”を封じるべく、“パリッシュシフト”を敷いたのが、藤田元司監督率いる巨人

 同年8月1日の試合(東京ドーム)で、左方向への打球が多いパリッシュが打席に入ると、ショート・川相昌弘が三遊間に、セカンド・篠塚利夫がショートに移動。サード・岡崎郁とともにニ、三塁間を野手3人で守るシフトで対抗したのだ。しかも、マウンドにいたのは、パリッシュの天敵・斎藤雅樹とあって、まさに“鬼に金棒”の布陣だった。

 ところが、これだけ用意周到のシフトにもかかわらず、9回の4打席目、パリッシュは斎藤の外角スライダーを左手1本だけで左越え二塁打を放つ。これまで20打数2安打0本塁打とほぼ完璧に抑えられていた天敵から放った初の長打でもあった。

「手を伸ばすだけ伸ばした。とにかく、これからは左手だけで打つようにするよ」とご機嫌のパリッシュだったが、阪神移籍後の翌90年は、斎藤から1本も安打を記録することができず、せっかく編み出した“秘打”もご利益なし。最初からシフト要らずだったような気もするが……。

 ID野球で知られる野村克也監督も、南海のプレーイングマネジャー時代に打球方向を分析し、長池徳二シフトや永淵洋三シフトを試みているが、ヤクルト監督時代にそのターゲットになったのが、巨人ルーキー時代の松井秀喜。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら
次のページ
ヤクルト池山独自の判断だった“松井シフト”