たとえば、中津川がある置賜(おきたま)地域には、恵みを与えてくれる草木をたたえる「草木(そうもく)塔」と呼ばれる石塔があります。私は日本に来て、仏様に報告したり、神々に感謝の気持ちを伝えたりする日本人の姿に惹きつけられましたが、草木塔の前に立ち止まり、自然の恵みへの感謝を体現することに感動を覚えます。



 日々の生活では「相手を想う心」を大切にしています。さきほど、日本には多様な文化があると話しましたが、この「相手を想う心」は日本人が共通して持っているものです。東京が魅力的な都市であるのも、日本の村にあった文化や習慣が、現代に現れていると私は考えています。

 私の祖国である英国は日本と同じ島国ですが、山が少ないために日本よりはるかに人の移動が簡単です。そのため、英国のローカル文化は急速に薄れていて、方言も少なくなってきました。日本は急峻な山が多いので、多様な文化がたくさん残っています。これは、世界的に見て貴重なことなのです。

──しかし、日本の村は現在、人口減少によって存続が危ぶまれています。

 私は、日本人の女性と結婚して3人の子供がいます。3人とも日本国籍です。親としては、今後の日本がどのような道を歩んでいくのかは、とても気になることです。

 万華鏡のような村の文化が失われることは、日本にとってではなく、人類全体にとって大きな損失です。このまま地方の衰退が続けば、日本には東京と、東京に似た都市、あとは「観光地化された村」しか残らないでしょう。村がなくなれば、東京が持つ魅力も失われることになると思います。

 だから、数百年にわたって持続可能な暮らしを実践してきた村の人たちのDNA(遺伝子)を残していかなければなりません。戦前生まれの人たちが減少していくなかで、その人たちの歴史を残すことは、今やらなければならない。持続可能で多様な暮らしを実践してきた村の人たちの智慧は、これからの人類にとって大きな財産なのですから。


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若者や外国人を村に連れて行くことでおきること