「たとえば肺にがんができた場合、手術で治すためには肺の一部を取る必要がありますが、これは高齢者にとってはかなりの負担になります。術後の呼吸に影響が出るからです。しかし放射線治療であれば、肺を摘出せずにがんを死滅させることができます」

 種類にもよるが、一部のがんで放射線治療は手術と同等の治療効果が期待できる。ただし負担が少ないからといって、決して手術よりも単純な治療法というわけではない。放射線治療においては、不要な被ばくを防ぐため、放射線を局所的に照射することが求められる。そのためにはがんの場所を正確に計算し、把握することが必要だ。ここで治療部と診断部の仕事が交差する。

「治療と診断が別の部署であったとしても、お互いの知識をもっている必要があります。治療のイメージがあるからこそ疾患の診断もスムーズにできるし、診断の知識があるからこそ放射線治療の照射部位や線量などを決めることができるのです」(唐澤医師)

 治療を専門とする放射線技師も存在する。診断画像から、どこの範囲にどれだけの線量を当てるのかを計画するのが医師で、医師の指導のもと治療を行うのが放射線技師だ。

 ただ、放射線治療が高精度化したため、より複雑な部位に細かく放射線を当てることが増えている。そこで近年では、医師と放射線技師の間に医学物理士という専門家が入っている。医師が決めた治療のために、どのように照射すれば最高の効果が得られるのかを緻密に計算するのが彼らの仕事だ。

 最近は強度変調放射線治療(線量を変化させながら照射することで効率的に治療を行う)や定位放射線治療(細いビームをがんの形にあわせて多方向から集中照射する)などの難しい治療を行うことが多い。そのため医学物理士の仕事は、より一層必要とされている。

「十数年前には、いまでは考えられないぐらい原始的な治療をしていましたよ」と唐澤医師は笑う。放射線の医療技術はいまも進化しつづけている。(文/白石 圭)

◯唐澤克之(からさわ・かつゆき)
都立駒込病院放射線診療科治療部部長。専門は放射線腫瘍学(高精度放射線治療、肺がん、前立腺がん、膵臓がん、下部消化管腫瘍、甲状腺がん)。