これを証明した代表的な研究は、2017年に日本の成育医療研究センターから発表された研究です。この研究の対象者は、アトピー性皮膚炎のある赤ちゃんでした。アトピーがあると、食物アレルギーを発症するリスクが高いことがわかっているからです。研究では、まずしっかりとアトピーの治療を行い、皮膚の湿疹をきれいに改善させました。その後赤ちゃんを2グループに分け、一方のグループには生後6か月から毎日、加熱した卵を含むパウダー(ゆで卵0.2g相当)を与え、もう一方のグループには見た目のよく似たかぼちゃパウダーを与えました。1歳になったときの卵アレルギーの割合を調べると、卵を摂取したグループの方が80%近くも少ないことがわかったのです。

 このような研究結果から、新しい支援ガイドでは、生後5,6カ月から卵黄も開始するように記載が変更されたのです。

 しかし、ただ早く食べさせ始めれば良いというものではありません。例えば、2013年にオーストラリアから発表された研究では、中等度から重度のアトピー性皮膚炎のある4カ月の赤ちゃんを2グループに分け、一方には卵パウダー、もう一方には米粉パウダーを食べさせました。前述の日本の研究とは違い、卵パウダーは加熱していないもので、量も卵たんぱく0.9g(卵1/6)相当とやや多いものでした。すると、卵パウダーを摂取した赤ちゃんの1/3はアレルギー反応が出現してしまいました。

 すでに乳児湿疹などで皮膚バリアが壊れている場合は、まずしっかりと治療を行って、皮膚の状態を改善することが大切です。支援ガイドでは、湿疹があったり、食物アレルギーが疑われる場合などは、医師の指示に基づいて対応するようにと書かれています。

 そして卵を食べ始める際は、固ゆで卵の卵黄を少量から開始するのがおすすめです。

 卵黄から始めるのは、卵の抗原となるタンパク質が、主に卵白に入っているからです。また、生卵より加熱した卵、特に固ゆで卵がアレルギーを起こしにくいことも知られています。はじめに固ゆで卵の卵黄、そして固ゆで卵の卵白と進めていき、卵焼きはそれより後にチャレンジするのが良いでしょう。卵をゆでた後に放置することで、卵白から卵黄に抗原が浸透していくこともわかっています。特に卵黄の与え始めの時期は、ゆでた卵がある程度冷えたら、早めに卵白と分けておくのが安心です。

 明日からの育児で使える新しい知見が、研究からもたらされるのは素晴らしいことだと思います。この記事を通して一人でも多くのママ・パパに新しい情報をお伝えし、子育てに活かしていただきたいと思っています。

○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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森田麻里子

森田麻里子

森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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