また、広島大の越智光夫学長はこう話した。

「高度な科学技術の進歩は、私たちの生活を飛躍的に向上させる一方で、人間の生命・身体の安全を脅かす負の側面への懸念も強まっています。核兵器がまさにそうですし、最近では『ゲノム編集ベビー』の誕生など、先端技術への不信を高める行為が起きています。広島大学は、社会との開かれた対話を進めながら、新たな科学技術の安全性や倫理面にも全力をあげて真摯に向き合ってまいります。

 平和の時代を創造するために、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士、朝永振一郎博士らが呼び掛けた1962年の『第1回科学者京都会議』の声明に、次のような一節があります。

『科学は私たちの生きている世界に内在する真理の発見によって、人類に貢献してきた。しかし、科学にもとづいて技術的に実現し得ることのすべてが、人間にとって、また人類全体にとって望ましいものとはいえません。科学の発見した真理を、人類の福利と平和にのみ役立てるためには、科学者を含むすべての人が、科学の成果の誤用、悪用を防ぐことに不断の努力を続けなければならないのであります』

半世紀以上を経てなお、その内容は全く色あせていないことに驚かされます。これから大学人となられる皆さんにも、心に留めていていただきたいと思います」(4月3日)

 関東学院大の規矩学長は、大学は就職予備校ではないことに釘を刺している。広島大の越智学長は被爆地からのメッセージとして平和の大切さ、科学技術の安全性や倫理性を説いている。

 大学の入学式でだれが何を語ったか。その大学の思想に触れられる。そして、大学がどれだけ社会と密接につながっているかを知ることができる。上野氏の東京大祝辞を機に、学長式辞、来賓祝辞を読むことをおすすめしたい。

<各大学の祝辞、式辞はすべて大学ウェブサイトから引用>

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫