チーム内で丸の練習メニューを手本にする選手は多い。岡本和真、小林誠司、吉川尚輝、さらには菅野智之、坂本勇人。原辰徳監督も「丸効果がチームの意識改革につながっている」としたり顔だが、果たしてそうだろうか。

 丸も桑田も強化ポイントの「質」と「目的」が違うのだ。それに、二人とも群れを嫌う孤高の一匹狼だ。時には恐山のイタコが見せる鉄面皮のトランス状態になる。練習中に怖い顔してたねと聞いたら桑田に言われた。

「説明しても理解できっこない幽体離脱です」

 丸も「僕の表情ってそんなに固まってますか?」と逆襲する。丸は修行僧の顔で毎日繰り返す。その意図は誰にも分からないだろう。巨人の選手たちは「丸がやるから俺もやる」という短絡的な盲従トレーニングなら、やらないほうがいい。

 ところで、丸の打順を巡って原監督とコーチ陣で最善策が見えていない。好調なら1番から3番まで期待通りの結果を文句なしに出すだろう。だが、それ以外にも活路がありそうだ。

 5番はどうか。原も検討している「オープナー」の認知が広がっているように、打順の役割も様変わりして球界の戦術が激変する可能性がある。元来、上位打者との勝負でバッテリーが配球カードを使い切った後に打席が回ってくる5番打者は、メリットたっぷりの「おいしい打順」なのだ。

 広島は昔から、5番打者の存在感が際立っている。前田智徳に始まり、嶋重宣、エルドレッド、鈴木誠也、松山竜平。なぜかみんな、膝が柔らかい。「不器用な男」にはスランプが必ず来る。その時「打順5番」は丸の運命を変えるかもしれない。

 丸は知る人ぞ知る、球界随一のクラシック音楽通だ。カープでは登場曲をピアノ協奏曲にして打席に入ったほどの変わり種。チャイコフスキーを聴くと、傷ついた脳みそが優雅に研ぎ澄まされるらしい。お気に入りは楽聖・ベートーヴェン。そうだろう。ベートーヴェンの交響曲「運命」は“第5番”なのだから。(文・吉 元晴)