また田中さんは、「マネージャーのフランクは元々アメリカのEPIC・レコードのプロモーション部門のヘッドだった人です。その仕事ぶりをマイケルが見込んでマネージャーに雇いました。日本はマネージメント会社がアーティストを雇いますが、アメリカは逆。アーティストがマネージャーを雇います。フランクはいかつい外見ですが、元々レコード会社の人間だっただけあり、物わかりのいい、こちらのやりたいことに応えてくれる人でしたよ」という。

 ナイーヴな子ども好きのマイケル像から一転、生き馬の目を抜く厳しい米・ショービズの世界で信用できる人物を自ら選定して起用する、ビジネスマンとしての冷静な視線を持つマイケル像が見えてくる。

「日本では田中章さんをアキ、と呼んでマイケルは一番信用していましたよね。同じアキでも、清水彰彦の僕はアキ2でした。田中さんは同じ会社にいた僕から見ても損得関係なく動く信頼できる人ですからね」(清水さん)という。ビジネス面だけじゃなく、マイケルは人の本質も容易に見抜いて、付き合う人を選んでいたんだろう。私から見ても、田中さんを信頼するマイケルは分かってる人だなぁと思う。

 となると、マイケルの子ども好きは単なる噂だったのか? 
「マイケルがまだネヴァーランドに引っ越す前、エンシノに住んでいた頃に訪ねたことがあります。そこは事務所にもなっていましたが、家の中に『お菓子の家』がありましたね。いや、お菓子で出来てるんじゃなくて、あらゆるお菓子が用意されてるんですよ、いつ子どもたちが遊びに来てもいいようにって」(田中さん)

「ほら、やっぱりね」なんてほくそ笑む人もいるかもしれないけど、ごく普通な自分と、世界で3億5千万枚以上ものレコードやCDを売り上げることができる男の考えることは、まるで違うんだと自覚せねばならない。

 東京大学の安富歩教授は「マイケル・ジャクソンの思想」(アルテスパブリッシング/2016年)という本の中で、マイケルが1993年のグラミー賞で演説した「子どもたちは最も深い智恵に到達していて、そこから創造性を得る方法を教えてくれる」を何度も引用する。マイケルが子どもたちを愛したのは、そういう深い思索のところに所以があるというのだ。だいたい考えてもみてほしい。もし本当にマイケルが子ども達を性愛の対象として見ていたのなら、絶対にそれを隠し、家に用意したお菓子の家を外から来る人が安易に見られるようにしておかないのではないか? 最少の人件費で冷静にビジネスを遂行し、3億5千万枚を売り上げられる男なのだ、それぐらい考えられるだろう。

次のページ
公表されない多額の寄付