ケンジという人は無邪気で、優しくて、でも切ない。ゲイってそういうものなのかしら。いえいえ、人間って、そういうものです。そんな自問自答をしながら、このシーンでちょっと泣いた。

 名作ドラマ「JIN-仁-」(TBS系)を見た2009年以来、私は内野を日本で一番、坂本龍馬が似合う俳優だと思っていた。だから、それから10年経った2019年3月、「スローな武士にしてくれ」(NHK)で内野が主演するのを、楽しみに待っていた。敬愛するつかこうへいさま(という話は長くなるので割愛)が描いた「蒲田行進曲」のヤスを彷彿とさせる大部屋俳優を演じる内野を見て、「坂本龍馬には負けるけど、内野のチョンマゲは良いなー」と思っていた。

 それから2週間ほど時が過ぎ。4月5日、「きのう何食べた?」の初回を見て、内野は日本で一番、ゲイの美容師が似合う俳優だと思った。

 つまり、内野はとてもうまい俳優だということに過ぎないのだが、「テレ東プラス」のインタビューを読んでわかったことがある。それは、彼が演じると、そこに「自然な時間」が流れるということだ。

 人にはそれぞれ背景があり、人は必ず誰かとかかわり、そういうことの蓄積で「自然な時間」ができる。当たり前なことだが、それを内野は俳優として逆算している。だから、説得力がでる。うまい!と感じさせる。

 西島秀俊もとても良い。ハンサムな顔で案外ほうれい線が目立って、そこが良い感じだった。仕事にはやりがいを求めないと公言する。超がつくような倹約家。そういう独特な感じが、顔からにじむ。

 ツルツルでないハンサムなシロさんと、えーんえーんと泣くケンジと。2人に流れる時間を、見守っていきたい。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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