オードリーがテレビの人気者になってからも、春日のマイペースぶりは変わらなかった。確かに、フィンスイミング、ボディビル、レスリング、東大受験など、体を張って数々の過酷な企画に挑んでいる春日は、一見すると人一倍努力家であるように思われるかもしれない。だが、必ずしもそういうわけではない。春日自身もこう語っている。

 外からの刺激に対して、逃げたり、防御したりしない。ノーガードでそのまま食らってるだけ。何も考えない。考えるから、抵抗したくなったり、ストレスになったりするわけでしょ。状況が変わらないなら、考えるだけムダ。何も考えずに、ただ宇宙を漂ってるような生き方のほうがラクだよね。
(『オードリーとオールナイトニッポン 自分磨き編』扶桑社)

 良くも悪くも、春日は何も考えない。テレビの企画で何かに挑戦しなければいけないのであれば、黙ってそれに従う。「やりたい」とか「やりたくない」という自分の意志をそこに介在させない。なぜなら、その方が楽に生きられるから。そして、今までもそうやって生きてきたからだ。春日は誰よりも怠惰だからこそ、誰よりも努力できるのである。

 そんな春日が、彼女へのプロポーズの手紙の中で意外な言葉を口にしていた。10年間の長きにわたって交際を続ける中で、結婚を望む彼女の気持ちを蔑ろにしてきたことについて謝罪の言葉を述べた後、こう続けた。

「結婚で何かが変わってしまうのが怖かったのです。クミさんのことより自分のことしか考えてこなかったのです。好きな人の一生を幸せにする覚悟が生まれるのに10年もかかってしまいました。長い間、待たせてごめんね」

 仕事でもプライベートでも、ずっと飄々とした態度を貫いてきた男が、初めて弱みを見せて、目に涙を浮かべた。一瞬だけ「春日」という着ぐるみを脱いで「春日俊彰」の素顔を見せてくれた。何も考えず、何も感じず、すべてをスルーしてきた男も、さすがに結婚という人生の一大事には真正面から向き合うしかなかったのだろう。

 その後、彼女から「泣いているところを初めて見た」とからかわれ、春日は「泣いてはいないけどね」と強がってみせた。春日はすぐにいつもの春日に戻っていた。

 春日はこれからも春日であり続けるだろう。仕事上のパートナーである若林に続いて、私生活でも最高のパートナーを得た春日の前途は明るい。長年見守ってきたファンとして、心から「おめでトゥース」という言葉を贈りたい。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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