■発酵が進むと乳酸菌だけが増えていく

 これらの菌が発酵期間や漬物のpHなどによって増えたり減ったりして変化していく。発酵初期には発酵に関与しない、いろいろな微生物も増殖するが、発酵が進んで乳酸量が増えていくとこうした菌は減っていき、「乳酸菌」だけが増えていく。

 乳酸菌によっては「ヘテロ乳酸発酵」といって、乳酸だけでなく酢酸やエタノール(いわゆるアルコール)、炭酸ガス、エステルなどを生成する。漬物に微妙な香味を与えるのに役に立っているそうだ。

 さらに、からし菜、高菜、カブ、キャベツ、わさびなどには揮発性成分であるAllyl isothiocyanate (AIT)が含まれており、これが一般細菌の増殖を抑制し、かつ乳酸菌の増殖を促進し、漬物の熟成に寄与しているのだという。

 漬物がどのくらい人間の健康に寄与するのかはわからない。しかし、だめになりやすい生野菜の腐敗を防止するのに乳酸菌は有用だ。野菜の有効成分を効果的に摂取できるということで、間接的に健康に寄与している可能性はある。

 一方、漬物に使われる塩分の量は高血圧などの遠因になっている。漬物には一長一短あるということか。漬物の健康効果について、英語論文があるかと思って「ピクルスpickles」で検索したら、Picklesさんという方の書いた論文がやたら見つかった(笑)。

 どうもこの領域については医学的な研究は不十分なようである。逆に言えば、研究する余地、そして価値は十分にあるということだ。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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