よく語られていることですが、仕事に追われて時間が無い中で、それでも書店に行くと時間を忘れるほど楽しいのは、リコメンド機能では絶対に出合わない類の書籍に、次々に出合えることにあります。
リアル店舗は、その店舗内の体験に限らず、店舗を訪れる道のりにも「偶然の体験」があります。そして、私たちは経験的にそれが生活感覚的な豊かさや面白さ、体験や感覚の広がりをもたらしてくれることを知っています。
Amazonに伍してリアル店舗が生き残っていくには、この「偶然」つまり意図せぬ出会いや体験をどのように設計できるかが鍵になるのではないでしょうか。
■超便利な世界は望ましい未来なのか?
さて、超便利なAmazon的世界が、本当に望ましいものなのかは別問題です。
私は『THE VISION』の中で以下のように書きました。
「たぶん、私たちが水道を意識しないで使っているように、今後、Amazonは世界中で『生活インフラ』として、ほぼ意識しないような存在へと進化していくような気がします。それが良いことなのか悪いことかは別にして」
Amazonは、電気、ガス、水道のようにさらに「生活インフラ化」するでしょう。便利さとは麻薬のようなもので、後戻りがなかなかできません。
AmazonやApple、Googleなどは、どこまで私たちの生活の深く入り込むのでしょうか。それは、これらの企業にわれわれ個々人のデータをどこまで譲り渡すのかにかかっています。お隣の中国ではセサミ・クレジット(胡麻信用)といって、SNSでの言動やレンタサイクルの貸し借りなど、生活行動のあらゆるところから信用評価のデータを取ることが始まっています。
それはデータ計測されない、追跡&捕捉されない権利を手放すイメージです。その代わりに信用情報と便利に生活する権利が手に入るのです。現状の程度であれば、個人的にはデータ捕捉にそれほど抵抗感はありません。しかし、自分の行動の80%以上が捕捉されるとなれば、かなり抵抗感が出てくるのではないでしょうか。