ただしハーパーのそうした個性は、彼にとって必ずしもマイナスではない。実際にナショナルズ時代、いや高校時代からハーパーはファンからの支持が抜群のスター選手であり、それはフィリーズへ移籍した今も全く変わっていない(もちろん古巣のナショナルズファンは例外だが)。

 ある報道によると、ハーパーがフィリーズと正式契約したと発表直後、フィリーズは2日間でチケットを18万枚も売り上げたとのこと。また新ユニフォームやフィリーズ関連グッズも文字どおり飛ぶように売れまくったという。フィリーズとしてはハーパーへの巨額年俸と引き換えに、プレー以外の部分でもさまざまな恩恵を得ている。こうした点ももちろん計算ずくだったに違いない。

 そもそも契約自体にしても、確かに13年3億3000万ドルは巨額ではあるが、1年平均ではおよそ2540万ドル。これはハーパーの契約直前にパドレスと10年3億ドル(1年平均3000万ドル)で契約したマニー・マチャド三塁手や、やはり昨オフにロッキーズと8年2億6000万ドル(同3250万ドル)で契約延長したノーラン・アレナド三塁手、さらに同年代で並び称されることの多いエンゼルスのマイク・トラウト外野手が今季開幕直前に結んだ4億2650万ドルの12年契約(同3583万ドル)に比べれば、シーズン単価ではかなりの割安感がある。

 これにはハーパー自身が年単位では高額ながら契約年数が短めの契約を望まなかったという事情もあった。またフィリーズも世代交代がひと段落し、リース・ホスキンス一塁手やマイケル・フランコ三塁手など、長期にわたって将来を担うに足る20代半ばから後半の選手が揃ってきたという状況にあり、ここへさらなる主力選手を長期契約で補強することには大きな意味があった。お互いのニーズが合致したがゆえの13年3億3000万ドルだったのだ。

 確かに、あのプホルスやカブレラですら10年の長期契約の後半では衰えを隠すことが難しく、年俸に見合った活躍がで来ていないのは事実だ。だがハーパーは彼らよりも5歳近く若いタイミングでの長期契約でもある。果たしてこの大型契約が将来の不良債権を生み出すものになるのか、それともお買い得だったと呼ばれるようになるのか。答えが出るのは少なくとも10年近くは後のことになるだろう。(文・杉山貴宏)