このように打者にとって手首の骨折というのは非常に厄介なものであり、下手をすると選手生命にも影響するものであるということはよく分かるだろう。もちろん、その故障からの完全復活が不可能だということではない。同じチームの先輩である中田翔は入団した年の2008年に左手首を骨折してその対応も遅れたが、しっかり治してその後はチームの主砲として長く活躍している。また松田宣浩(ソフトバンク)も2010年に左手首を骨折しているが、その翌年には全試合に出場するなど復活。2015年から昨年までの4年間で118本塁打をマークしており、その長打力には陰りが見られない。

 そして今回の骨折は清宮にとってプラスの面も少なからずあるのではないだろうか。清宮が所属していた早稲田実は野球部のレギュラーであってもテストの成績が悪ければ留年になる選手もいるほど勉強面でも厳しく、普段の練習時間も他の強豪校に比べると決して長いものではない。

 そんな環境で入学直後からレギュラーとして試合に出続けていたため、プロ入り後も体力面が不安視されていたのだ。昨年の二軍暮らしが長かったものの、試合に出続けていたという状態は高校時代とは変わらなかった。シーズンオフではない時期にこれだけ戦列を離れるのは初めての経験ではあるが、この期間をしっかりと体力面の強化にあてられるというのは後々プラスになるだろう。

 そして何より重要なのは同期の村上や安田の活躍に焦ることなく、しっかりと故障を完治させるということだ。チーム打率は2割台前半と打線は決して好調ではないものの、そのなかでもここまで勝率5割以上をキープしている。首脳陣も無理に昇格させるのではなく、将来的なことを考えての起用を望みたい。今回のケガをきっかけに、さらにパワーアップした清宮が見られるのは後半戦以降でも決して遅くはないはずだ。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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