石毛:田舎の暮らしが、野球技術に生きた。今の子どもたちは、雑巾をしぼれない。金づちを打ったり、おのでまきを割ったりもしない。てこの原理を知らないからバットにうまくボールを当てて遠くに飛ばせない。

弘兼:川に行って「水切り」なんてしないんでしょうね。

石毛:遊びの中でスポーツに作用するようなことが、できない。野球は野球で覚えようみたいな。日本の選手も、それぞれのアスリートはいるけれど、オールラウンドはできない。少子化のいま、一つの競技に特化してしまう。でも、将棋棋士の藤井聡太さんや9歳で囲碁棋士の仲邑菫さんとか、アスリートもティーンエイジャーががんばっています。昔は、読み書きそろばんが第一でしたが、今はやりたいことをやらせて必要なものはその後ついてくるという、親の見方が変わってきたと思います。

■一番遠くに飛ぶヒッティングポイントで打つのは「王さん」

弘兼:運動はしていますか?

石毛:月に何回か、アカデミーや塾で野球を教えるぐらい。60 歳を過ぎてやっと「野球がうまくなったなあ」って思えるんです。(笑い)

弘兼:えっ、それまでは本能?

石毛:はい。野球の理論を求めた現役時代は何だったのかと。分析すると、王さんは一番遠くに飛ぶヒッティングポイントで打つ。落合さんもトップが深くボールまでの距離感がある。教える立場になり人の打ち方を観察するようになって、現役時代に自分が考えてきたことが「とんちんかんだった」とわかる。選手と向き合うときは問診が正しくなければいけません。自分が通ってきた道なので「こうすればいいんだ」と承服させる理論をぶつけます。

弘兼:相手を信頼させる、ということから始めるんですね。スポーツは心技一体です。

石毛:僕は心が先にくるのは、30歳ぐらいからで、そこまでは体技心の順番なのかな、と。いくら人間性が素晴らしくても、技術がないと認められないですし。

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もし大谷翔平選手に教えるなら