目標の25年を目前に、エミさんは独立を余儀なくされた。

「沈没する船からネズミが逃げ出すように人が辞めていきました。私もこれを機に独立し、会社を作りました。会社といっても自分だけの1人会社です。とりあえずは仕事がまわってきて、デザイナーとしての仕事を続けることができました」

■プレゼン力を養うために話し方教室に入会

 デザイナーとしてのキャリアがあったエミさんは、つき合いのあった会社から発注を受けたりしながら、仕事をこなしていった。が、思いもよらない壁にぶち当たる。

「デザインの仕事はできるからいいんですが、あるときクライアントの偉い人の前でデザインのプレゼンテーションをしなければいけない場面で、まったくうまく話せなかったんです。今まで社内でのデザインの仕事ばかりで、外での営業ということをしたことがなかったから、直面して初めて自分の弱点に気がついたわけです」

 エミさんはすぐに、プレゼンを教えてくれるところをネットで調べた。そこである教室に行きつく。

「コミュニケーションのスキルを学ぶ教室では、会員がみんなの前でスピーチをします。『うちのが子どもを産んだので、今こんな名前を考えています』だの、『近所に素敵なカフェができて、そこでこんな発見がありました』というようなことを話すんです」

 関心があることや、どんなことを考えているかなどを話すので、自然と人間性が出ることになる。会員同士仲がよくなったり、結束が強いのもそういう活動をしているからだそうだ。

 近所にできたばかりの信頼できる教室に入れたことは運がよかったとエミさんは言う。同時に努力もした。

「即興力、ジェスチャーなど身体を使った表現力、映像を使ったプレゼンテーションなど、スピーチは知的でとても大変なこと。でも、頑張りましたよ」

 エミさんが入った頃はもっと教室を増やしていこうと、多くの教室が立ち上がる時期だった。ほかの地区のクラブからたまたま手伝いに来ていたのが、後にエミさんと結婚することになる彼だった。

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