■西洋医学では治療できない症状をカバーする

 西洋医学が主流になっていくなかで、日本においても中国においても、漢方は一時衰退します。しかし、西洋医学では治せないような病気であっても、漢方なら治療できるということで、日本でも中国でも見直され、現在にいたっています。では、西洋医学と漢方はどのように違うのでしょうか。

 西洋医学では、血液検査や画像検査などの結果によって病気を診断し、治療方法を決めていきます。検査で異常がない場合は、主訴となっている症状を抑える対症療法が中心になります。

 また、冷えや疲れやすいなどの病気とはいえない症状は、治療の手段がありません。 一方、漢方では、患者の訴えや生活習慣、医師による「見る」「触れる」といった診察を重視します。たとえ検査で異常がなくても不調があれば、治療の対象になります。このため、「冷え」や「疲れやすい」といった西洋医学では病気とはいえないような症状も、治療の対象となるのです。

 漢方はからだ全体のバランスを整え、その人が本来もっている自然治癒力を高めて、病気になりにくいからだをつくることを目標とします。不調があるということは、バランスが崩れている証拠と考え、治療ではその原因を突き止めて取り除きます。このため、どんな症状でも対応が可能なのです。

 漢方治療というと、漢方薬での治療をイメージする人が多いかもしれません。しかし漢方治療は、鍼灸(しんきゅう)、気功、按摩(あんま)(指圧など)、薬膳、養生までを含みます。

 養生とは、漢方の考え方をとり入れた、食事や運動、生活習慣などのことを指します。「一に養生、二に薬」といわれるように、治療において養生をなにより重視している点も、西洋医学と異なる点です。(文・中寺暁子)

■北里大学客員教授 小曽戸 洋先生
東京薬科大学卒。日本大学で医学博士、文学博士を取得。日本医史学会前理事長。上海中医薬大学客座教授。

※週刊朝日ムック「家族ではじめる本格漢方2019」から