広島監督時代の達川光男氏 (c)朝日新聞社
広島監督時代の達川光男氏 (c)朝日新聞社

 2019年シーズンが開幕し、野球の情報には事欠かない今日この頃だが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、現役時代に数々の伝説を残したプロ野球OBにまつわる“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「グラウンドの詐欺師&曲者編」だ。

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 際どい内角球が来るたびに、「当たった!当たった!」と死球をアピール。自ら手首をつねってアザを作る裏技まで駆使して審判の目を欺こうとした“グラウンドの詐欺師"達川光男(広島)だが、リアルで死球をぶつけられたのに、なぜか「当たっていない!」と言い張ったのが、1990年5月24日の阪神戦(広島)。

 3点を追う広島は4回、小早川毅彦の本塁打で1点を返したあと、アレンの三ゴロエラーと山崎隆造の右越え二塁打で無死二、三塁のチャンス。

 そして、次打者・達川光男に対し、猪俣隆の投球は、足元でバウンドする暴投。捕手・岩田徹が後逸する間に三塁走者・アレンが生還したかに見えたが、実は、ボールは達川の左足を直撃する正真正銘の死球だった。

 にもかかわらず、達川は、ホームインをアシストするため、必死に「当たっていない」とアピールした。

 しかし、日ごろの行いから、すぐに演技だとバレてしまい、判定は死球。親指の爪が割れた達川は、痛みをこらえ、足を引きずりながら一塁へ。直後、代走・植田幸弘と交代し、再び足を引きずりながら、ヨタヨタとベンチに引き揚げていった。

 この死球で無死満塁とチャンスを広げた広島は1死後、押し出し死球で1点差に詰め寄り、6回に4対3と逆転。再びリードされた9回にも野村謙二郎の2ランで追いつく粘りを見せたが、延長10回の末、6対8と無念の敗戦。達川の“名誉の負傷”は報われることなく終わった……。

 当時、“西の達川”とともに、“東の市川”と並び称された、もう1人のグラウンドの詐欺師が、88、89年に大洋(現DeNA)の正捕手を務めた市川和正である。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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“東の市川”が残した伝説