子どものころだけじゃなくて、大人になってからも、僕は人とちがうところだらけだったの。たとえば初対面の人と話すのが苦手。まともに初対面の人と話せるようになったのは58歳を過ぎてからかな。いま62歳だから、つい最近のこと。長く芸能界にいるのに、友だちは3人ぐらいしかいないんだ。

 僕の芯の部分にある「弱い部分」は治らないの。仕事を受けても、いつも「本当にできるかな」って心配になるし、なかなか強くはなれない。でも、それはそれでいいの。弱さと優しさって、見分けがつかないものだから。

 頭がよくて、なんでもできる人には、できない人の苦労がわからない。そういう「強さ」よりも、弱さのほうが大事かもしれない。弱くて、キツイ経験が、人を優しくするんだと思う。

 もちろん弱さはよさにつながることがあるのね。たとえば僕の手品。

 正直に言って僕は手品がヘタなの。手品が上手な人って、タネがわからないようにやれるでしょ。でも僕は下手だからバレちゃいそうになる。だからね、タネはすぐにバラしちゃうんだ。

 もちろん、いくつかバラさない手品もあるけど、それだってバレてもいいの。タネ明かしを聞くと、なんかホッとするでしょ。「なんだ、この人はすごくないんだ」って思えるからだろうね。僕はこの年になって思うんだけど、すごい人もダメな人もいない。みんな、プラスマイナスゼロなの。「すごい人なんていないんだ」っていう僕の思いが、いまの手品のスタイルにつながったんだと思う。

 みなさんは10代で、たくさん「うまくやれないな」って思ってるかもしれない。自分の本意じゃなく、不登校をしたり、ひきこもってたらよけいにそう思うよね。でも、あんまり「自分がイヤだな」って思うことは、がんばらなくてもいいと思う。学校も会社も同じ。だって本当に正しいことなんてわからないでしょ。自分が一番ラクな道を選べばいいの。誰もダメになろうとしていないんだからね。

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「好きなものを選べば自分の居場所に行き着く」