まずパッキャオの話をしておくと、メイウェザーもリングサイドで見守ったブローナー戦でのパッキャオの出来は悪くなかった。メイウェザーも42歳になっただけに、まだ力を残したフィリピンの英雄と再戦すれば敗戦のリスクは少なからずある。たとえ1億ドルの報酬を積まれようと、無敗レコードにこだわるメイウェザーは20〜30%でも負ける可能性があるファイトは行わないだろう。

 エロール・スペンス、テレンス・クロフォード、キース・サーマン、ショーン・ポーター(すべてアメリカ)といった他のウェルター級の強豪と対戦する可能性はさらに低い。彼らは年齢的にも全盛期に近く、苦戦の危険はパッキャオ戦と同等かそれ以上。それでいて稼げる金はパッキャオ再戦の足元にも及ばないのだから(とはいっても1戦で報酬3000万ドル程度は望めるが)、メイウェザーにとってのメリットは少ない。

 前述通り、過去2年、メイウェザーはボクシングではまともな実績のない格闘家たちを相手に巨額を稼いできた。“無敗レコード”という看板さえ保っておけば、危険の少ないエキシビションマッチの機会はまたあるに違いない。そんな立ち位置にいる42歳のスーパースターが、稼ぎはより大きくともリスキーなボクシングの試合を本当に望むだろうか。そんな道を選ばず、今後はエキシビションマッチとプロモート業に“専念”しても驚くべきではない。

 こうして記していくと、どうしてもシニカルに聴こえてしまうかもしれないが、メイウェザーは自らの才能と努力で今の立場を築き上げたということは付け加えておきたい。不公平なルールを飲んだ上で、破格の金額を払ってでもメイウェザーと対戦したいと考える格闘家&格闘技団体が存在する。好き嫌いは別にして、それだけの商品価値を確立した選手の凄さは否定できない。

 メイウェザーが今後、自身の価値を小出しにして換金する方向に進んだとしても、落胆するファンはいれど、真っ向から批判するのは誰にとっても難しいのである。(文・杉浦大介)