■再発、そして骨髄移植を決断した

 ルンバールは腰椎に注射針を刺し脳脊髄液を採取し、脳髄に白血病細胞が侵入していないかを診断する検査である。一方の髄注は、通常の治療では抗がん剤が中枢神経に届かないため、中枢神経内の白血病細胞を攻撃することができないので、直接、脳脊髄液に抗がん剤を注入するという治療である。どちらもエビのように腰を丸めた患者の脊髄管に注射針をブスリと刺す。当然麻酔をしているのだが、それでも痛い。処置後に腰周辺のしびれが残り、少しむかつきがある。

 つらい一日だった。移植用の中心静脈カテーテルの挿入処置を行った。これまでの入院で、左右の鎖骨、首、腕などいろいろな場所からカテーテルを挿入してきたが、どうやら僕の血管は体の中で複雑に絡み合っているようで、毎回挿入処置がうまくいかない。首に何度も麻酔針を刺して、首の血管から心臓近くまで届く長さ50センチほどのワイヤーをぐりぐりと挿入するという、痛さと恐怖のレベルがかなり高い処置に耐えなければならない。今回も最初に右首から挿入したが失敗、しばし休憩を入れて左首から挿入してようやく成功した。すべて終わった頃には全身が汗でぐっしょり。処置後3日くらいの間は、首の筋肉が痛くてまったく首が動かせなかった。

 この頃いちばんまいっていたのが、のべつまくなしにやってくる吐き気だった。もう一日中気持ちが悪い。何とか固形物を口に入れて食事をしたいのだが、食事のにおいだけで吐いてしまう。朝昼晩の薬の時間ごとに吐いてしまう。何度も何度も吐くので最後には胃液しか出ない。それでも、枕元にビニール袋をおいて吐き続ける。移植の影響だと思うのだが、原因は特定できなかった。医師にもいずれ治るといわれていたが、良くなる気配はいっこうになく、体力も奪われ、ただ布団の中で耐えていた。結局この吐き気は退院直前まで続いた。

 3回目の放射線照射後、耳下腺の痛みあり。午後からの最後の照射が終わり、病室へ戻る途中の車いすで突然嘔吐してしまった。その後、吐き気は夜まで続き、深夜にも何度かもどす。この2日間で放射線照射は終わったが、これは本当につらかった。じわりじわりと体の中から腐っていくようで、生きる力が奪われていくようだった。何度も受けてきた抗がん剤治療と比べても、この放射線による気持ちの悪さは段違いだった。もう二度と味わいたくない。

 発病から13年たった現在、男性は白血病を克服し、今ではフルマラソンを走るほど元気に生活しているという。