高校の受験プログラムに合わせて模試もたくさん受けた。予備校によっては問題を点訳してくれるところもあったが、そうでない場合は高校常駐の点訳コーディネーターがボランティアに依頼。試験日は変わるものの、天川さんは積極的に受けて勉強の進み具合を確かめていった。得意科目は英語で、理科や数学は「まあまあ」。苦手科目は現代文。短い評論ならまだましだが、長い小説になると指先で点字を1行ずつ読むのにどうしても時間がかかってしまう。

 やがて大学受験の志望校を決める時期になり、得意の英語が生かせる国際基督教大学(ICU)の教養学部、物理学を学ぶためにお茶の水女子大学の理学部、そして早稲田大学の先進理工学部の3校を受験することにした。

 なかでも早稲田大には8月のオープンキャンパスに参加して誘導サポート等を体験。出願がほぼ決まった時点で本人と保護者の了解のもと、戸山高校と先進理工学部で打ち合わせを行った。高校の担任教師から日ごろのサポート体制や教科書等の点訳対応について、大学にレクチャーしたそうだ。

「推薦入試の話も出ましたが、特筆できる卓越科目がなかったので一般受験で真っ向勝負しようと決めました」

<泥臭く>や<真っ向勝負>――18歳の女子とは思えない表現や語彙力に、多くの書物を読んできたことがにじみ出ている。そして受験結果を聞くと、3校とも合格したことを控えめに教えてくれた。

「早稲田理工は戸山高校のすぐ近くで、私にとっては行き慣れた経路のまま通えます。実際に進学する生徒も多かったですね。高校の先生方も大学のことをよく知っていて、ここの物理なら学びが深まるとアドバイスされて気持ちが固まりました」

「物理学は基礎研究、特に宇宙論や素粒子などの分野で理論的なことを学びたいです。そのほかにも心理学など、専攻以外にも興味があります。今はまだシラバス(授業計画)を読んで妄想を膨らませています。これからの生活に期待しています」

 理数系のなかでも物理の分野を点訳できる人は少ない。数式や図表なども使うので専門性が高いからだ。

「自分も当事者として関わっていくつもりですが、視覚障害者が学べる環境が整った社会に少しずつでも変えていきたいと考えています。そしてノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章先生のように、基礎研究を発展させられるような研究者になることをめざします。大学には、私が他の学生に負けないぐらい専門性を極められるような環境を整えてほしいと願います」

※3月22日にインタビューしました。

(文/アエラムック編集部・杉澤誠記)