“幻のランニング本塁打”騒動が起きたのが、87年の1回戦、東海大甲府vs大成(現海南大成校舎)。

 部員わずか10人の大成が部員48人の優勝候補を相手にどう戦うか注目された一戦は、6回を終わって大成が3対1とリード。劣勢の東海大甲府は7回1死、佐野由幸が右翼線にポトリと落ちる安打を放つ。ファウルグラウンドを転々としたボールは、なんと、フェンスの下にある排水口の隙間にスッポリ入り込んでしまった。ライト・井川豊一が捕ろうとしたが、奥のほうに入っているため、手を伸ばしても届かない。しかも、なぜかボールは2個あった!これでは、途方に暮れるのも無理はない。

 この間に、佐野はダイヤモンドを1周して生還。ランニング本塁打で1点差に詰め寄ったかにみえたが、大成側のアピールで審判団が協議した結果、ボールデッドで二塁打となった。

 1死二塁から試合が再開され、東海大甲府は無得点。“幻のランニング本塁打”に救われた形の大成がそのまま逃げ切るかに思われたが、8回にエラー絡みで1点を返されたあと、9回2死から逆転され、3対4と惜敗。大畠和彦監督は「大きな魚がポロッと手から落ちた感じです」と残念がったが、最後の打者として公式戦未出場の背番号10・阪上幸信が代打出場をはたし、10人全員が甲子園でプレーするという夢を実現できたのは何よりだった。

 ちなみに排水溝の中のもうひとつのボールは、結局どこのものか特定できずじまい。2度と珍事が起きないよう、応急処置として、同日の第4試合終了後、排水溝の隙間に表面を緑色に塗った発泡スチロールが埋め込まれた。

 セーフティバントが二塁打になるという珍打が見られたのが、01年の3回戦、常総学院vs金沢。

 両チーム無得点で迎えた6回表、常総は先頭の大崎雄太朗(元西武)が金沢のプロ注目左腕・中林祐介(元阪神)の逆をつく左方向へのセーフティバントを決めて出塁した。

 次打者・小林一也もバントの構えから三遊間に強めの打球を転がしたが、サード・吉田安弘とショート・新森裕基が同時に打球を捕りにいき、セカンド・池田裕が一塁カバーに入ったことから、二塁ベースががら空きに。

 この間に小林は一気に二塁を陥れ、セーフティバントなのに記録は二塁打となった。

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ピタリとハマった頭脳プレー