ラッキーゾーンがあった時代の甲子園 (c)朝日新聞社
ラッキーゾーンがあった時代の甲子園 (c)朝日新聞社

 23日に第91回選抜高等学校野球大会が幕を開け、連日熱戦が繰り広げられているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「平成甲子園センバツ高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、過去の選抜高等学校野球大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「本塁打&二塁打をめぐる珍事編」だ。

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 エンタイトル二塁打が誤審で満塁本塁打になるというトンデモ珍事が起きたのが、1984年の1回戦、佐賀商vs高島。

 3対1とリードした佐賀商は5回に1点を追加し、なおも無死満塁のチャンスに、5番・中原康博はカウント3-1から高島の左腕・赤水新次のストレートを一振。打球は左翼フェンスの4、5メートル手前でワンバウンドしてからラッキーゾーンに入った。

 テレビ中継のVTRにもこのシーンがハッキリ映っており、スタンドの観客もワンバウンドと認識した。普通ならエンタイトル二塁打である。ところが、二塁塁審は右手をグルグル回し、「ホームラン!」をコール。走って打球を追いながら、走者の動きも見なければいけないという切迫した状況下で起きた誤審だった。

 だが、高島・高田明達監督は「審判の判定は判定です。甲子園では抗議したくないと思っていた」と潔く判定に従う。当時の高校球界では、判定に対する抗議は慎むべきという考えが根強かった。

 守備側チームからアピールがないまま試合が進行したため、問題の“エンタイトル本塁打”は史上8人目の満塁本塁打として記録され、試合はこの回に大量6点を挙げた佐賀商17対4と大勝。誤審が勝敗に大きく関わったとあって、大会本部にファンから抗議の電話が殺到した。

 これを受けて、牧野直隆高野連会長は誤審があったことを認め、「今後、審判委員全員により正確なジャッジをするよう強く要望した」とコメント。また、外野フェンスに掲げられていた歴代優勝校の白地のプレートも、「白球を見づらくしている」という理由から、同日中に撤去された。半世紀以上も親しまれてきたセンバツの名物は、皮肉にも誤審によって姿を消す羽目になった。

 同年以来、甲子園から遠ざかっている高島は、昨秋の滋賀県大会で8強入り。21世紀枠の県推薦校に選ばれたが、残念ながら、35年ぶりの甲子園は見送りとなった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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“幻のランニング本塁打”騒動