先日現役引退を発表したイチローと話す巨人・原辰徳監督 (c)朝日新聞社
先日現役引退を発表したイチローと話す巨人・原辰徳監督 (c)朝日新聞社

 原辰徳監督は序盤の広島戦で賭けに出るつもりだ。3月5日、開幕前哨戦のマツダスタジアムでゲレーロが爆発し、広島を想定した14日のソフトバンク戦で小林誠司が2ランスクイズを決めた場面が強烈だ。これこそ原の思惑通りの収穫だったからだ。

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 ゲレーロは内角高めが致命的な弱点で、得点圏打率が極端に低く、中日でも本塁打以外では機能しなかった。打撃不振と人間不信で帰国寸前だった問題児。だが、原はゲレーロに春季キャンプからマンツーマンの打撃指導を繰り返した。結果「本来の力が見えてきたようだ」と復活を確信し「開幕が楽しみだね」と笑った。なぜか気になる。

 2018年夏の甲子園を沸かせた金足農高を彷彿させる2ランスクイズがヤフオクドームで決まったとき、原はベンチで「よっし! よっし!」とドヤ顔で小躍りした。抜擢した鈴木尚広・一軍外野守備走塁コーチの作戦が見事に的中したグッジョブだったからだ。

 原と鈴木は、東海大相模高時代に菅野智之が「振り逃げ3ラン」を決めたのを知っている。12年前の県大会の準決勝だ。相手はライバル・横浜高で三塁手が筒香嘉智だった。球審のジャッジを「スリーアウト」と聞き違えてベンチに引き揚げた横浜ナインを尻目に、三振した菅野が無人のダイヤモンドを一周して、高校野球史上初めての振り逃げ3ランが成立した。前代未聞の珍プレーである。

 でも、原はこれを「珍プレーかも知れないが、奇跡ではない」と言った。「奇跡は起きるんじゃなくて、起こすんですよ」と断言した。頼もしい男だ。発想が長嶋茂雄と似ている。では、原が仕掛ける奇跡とはなんだろう。

 巨人対広島。現時点で冷静に戦力分析すれば、巨人が開幕からぶっちぎって広島に圧勝するとは考えにくい。対戦成績以上に、状況は巨人に不利である。これを「タツノリ流の奇跡」で打破するには、陳腐な表現だが「隠し球」と「秘策」が必要になる。

 まず「隠し球」。原が用意したのは、大勝負に抜擢する無名選手ではない。お払い箱寸前の傷病兵を復活させた野村克也流の「再生工場」のリメイク版を狙っているフシがある。その筆頭が内海哲也(現西武)だった。これに中島裕之、上原浩治、澤村拓一、ゲレーロ、小林が続く。彼らの共通項は「絶頂期からドン底に落下した過去の人。メンタル面が弱く、好調が長続きしない」点だ。だから先発フル出場は期待しない。超短期の調子のピークを見極めて想定外の勝負に起用する。

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丸から聞き出した情報を使った「秘策」とは