マクドナルドは営業時間も長く、シフトも固定しているイメージもあるが、意外と夢を持っている若者には融通を利かせてくれているようだ。さらに芸人のライフスタイルにあった、時間の融通が効くバイトといえば、例えばテレフォンアポインターや、薬の治験、ドラマのエキストラなどがあるようだ。

「コンビニなどの店員や、工場での仕分け作業などの深夜作業も人気です。深夜は芸人の仕事はあんまりないですからね。いずれにせよ、ネタづくりの時間が十分にあって、オーディションなどの突発的な案件にも対応してスケジュールが組めるアルバイトが人気のようです。あとは、時給がいい仕事やあまり人目に触れないものもポピュラーです。さらに売れている芸人さんが経営している飲食店やバーもアルバイトするのに好都合で、人気です。すでに閉店しましたが、千原せいじ(49)さんが経営していた居酒屋なども、まだ売れてない芸人がバイトしてることで有名でした」(同)

●視聴者はドキュメンタリーとして見ている

 こうしたアルバイトをなんとかネタにして、舞台の外でも話題になる芸人が増えている。

「最近、太田プロのコンビ・マシンガンズの滝沢秀一(42)さんが、ゴミ清掃員の仕事についてエッセイを出版し、かなり話題になっています。現在は講談社の漫画ウェブサイトで妻が作画を担当し、エッセイ漫画の連載もスタートさせています。人々が意外と知らない世界を丁寧に描き、芸人さんならではの社会的な目線も入っていてかなりおもしろいんです。清掃業の仕事内容については意外と知られていない話も多く、また深夜や早朝の仕事なことも多いので芸人さんに人気らしい。『水曜日~』でも放送されていましたが、芸人ばかりを積極的に採用している清掃会社もありますね。それ以外にもソラシドの本坊元児(40)さんが『プロレタリア芸人』(扶桑社)を上梓するなど、アルバイトと芸人はコンテンツとして成立しやすい」(民放バラエティ制作スタッフ)

 ひとつのジャンルとして成立した感のあるお笑い芸人の「バイトネタ」だが、視聴者を引き込む理由は何か。お笑い評論家のラリー遠田氏はこう分析する。

「まず、ゴミ清掃など私たちが日常生活で接しているけどよく知らない仕事の舞台裏の話が聞けるのは、単純に興味深いことです。それを普通の人が話してもそれほど面白くないかもしれませんが、笑いのプロである芸人が独自の視点で面白おかしく話してくれるから笑えるし、興味が持てるし、その仕事が身近に感じられます。また、世間ではどうしても『芸人はふざけてお気楽に生きているものだ』と見下しがちなところがあるので、バイトなどの苦労話を伝えることによって、芸人に対する見方が変わり、その人の人間味の部分にも興味が持てるようになる。いわば、ドキュメンタリーとしてお笑いを見ることができるようになるのです」

 芸人にとってアルバイト経験は下積みからブレークへの“近道”になりつつあるのかもしれない。

(ライター・黒崎さとし)