定説を打ち破り、『翔んで埼玉』が異例の大ヒットを記録し続ける理由

道理で笑える ラリー遠田

ラリー遠田

2019/03/09 11:30

 この映画で「埼玉差別」をネタにすることが許されているのは、何よりもまず「埼玉」という題材がちょうどよかったからだ。一般に、埼玉県民は自分たちの県に対してやや自虐的な意識を持っている。大きな観光地や有名な名産品もほとんどなく、都会としても田舎としても中途半端。日本の首都である東京に隣接しているため、東京にはかなわないというあきらめがある。そんな埼玉県民の寛容さがこのコメディを生んだ原点にある。

 一方、東京都民が埼玉県民を差別しているかというと、これも実際にはほとんどないような気がする。なぜなら、東京は大都市であり、日本中から人が来て住み着いているからだ。いま東京に住んでいるとしても、地方から出てきた人も多い。その人たちには初めから埼玉をバカにするという感覚がない。自分たちの故郷に比べれば、人口が多く東京へのアクセスもいい埼玉はそれほど田舎だとは感じられないため、蔑む対象にはならないのだ。

 埼玉が「ダ埼玉(ダサい+埼玉)」などと揶揄されることが多いのは、実際にはそこに深刻な差別が存在していないからだろう。

『翔んで埼玉』では、埼玉を含む地方ネタの選び方も絶妙だった。埼玉県民だけが理解できるような小ネタが随所に挟まれていたり、埼玉と千葉のライバル意識、大宮と浦和の対立、埼玉や千葉のさらに奥地にある「秘境」としての群馬など、どれも的を外していなくて面白い。一発一発のパンチが確実に命中していくので、余分なストレスを感じることなく最後まで楽しむことができる。

 また、差別ネタが深刻に見えないように、徹底的に漫画的な演出を取り入れているのも見逃せない。作中では、百美が通うエリート校はまるでフランス貴族の宮殿のようであり、衣装や小道具の細部に至るまで漫画的にデフォルメされた貴族っぽさに満ちている。原作の世界観を取り入れつつ、そこに描かれていないところまでしっかりフォローされている。

 GACKT、京本政樹、麿赤兒、竹中直人、加藤諒など、主要キャストは個性豊かで、存在そのものが漫画のようなインパクトの強い人物ばかりだ。

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