作業着に変装して東京拘置所から出てきたカルロス・ゴーン氏(c)朝日新聞社
作業着に変装して東京拘置所から出てきたカルロス・ゴーン氏(c)朝日新聞社

 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長(64)が6日、東京拘置所から保釈された。ところが、108日におよぶ勾留から開放されてはじめて公の場で見せた姿は、イギリスの人気コメディー番組「ミスター・ビーン」の主人公を彷彿とさせる作業着姿と白いマスクだった。予想外の姿に、日本のみならず世界で衝撃が広がっている。

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 ゴーン氏が着用していた帽子は、埼玉県川口市の鉄道車両整備会社・日本電装のもので、作業着も実在する企業のものだと思われる。乗り込んだ車は、日産ではなくスズキの軽自動車。出発後に多くのマスコミの車両とヘリコプターが小さな車を追いかける様子を見て、まるで滑稽な喜劇をながめているように感じた人も多いのではないか。

 その結果だろう。昨晩から今日にかけて、ニュース番組やワイドショーの話題はゴーン氏の変装に集中した。その多くは「拘置所から堂々と出てきてほしかった」などと批判的なものがほとんどだ。だが、まったく別の見方もある。政治ジャーナリストの田中良紹氏は言う。

「変装は弁護団が綿密に準備した戦略でしょう。おそらく、ゴーン氏としては保釈後に『私は無罪です』と堂々と言いたかったのではないか。欧米流ではそれが正しいが、日本の司法で無罪を勝ち取るには裁判所からも国民からも“同情”してもらった方が有利。弁護団としては、ゴーン氏を日本の司法のやり方を理解してもらいたい。その儀式の一つとして、作業着の着用をしてもらったのではないか」

 日本の司法が「世論」に左右される傾向があることは、これまでも専門家から指摘されてきた。もし、昨日の保釈でゴーン氏が日産会長時代の堂々とした姿で登場し、無罪を主張すればどうなったか。おそらく、多くのメディアはゴーン氏に批判的なトーンで報道しただろう。それが今ではゴーン事件の報道は「変装」の事実ばかり。「保釈後に報道がゴーン批判一色」という事態にはなっていない。

 ゴーン氏の弁護を務める弘中惇一郎弁護士は、報道陣に対し7日、「(変装は)テレビで見てビックリしました」と自らのアイデアではないと話した。また、「あれはあれでユーモラスで、いろいろなアイデアがあっていいんじゃないかと思う」とも語っている。

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「無罪請負人」弁護団の本気度