だからといって、日本の外務省が何もしないでいいわけではありません。相手国の政治システムが変わったなら、権力に近い人とのつながりを築き、交渉をしなければなりまん。私が北朝鮮と交渉をした時も、在中国の北朝鮮大使館などのルートを使ったわけではありません。

 たとえば、現在の李洛淵(イ・ナギョン)首相は日韓賢人グループにいた知日派です。彼とは過去に日韓関係について何度も意見を交わしたことがありますが、とても聡明な人物です。彼のような政治家を味方につけて、外交を積み上げていく必要があります。

──小泉純一郎政権の時には、靖国参拝をめぐって日中関係・日韓関係が悪化しました。最初に靖国神社に参拝したのは2001年8月13日で、その約1カ月後に田中さんは外務省のアジア大洋州局長に就任しました。

 就任したとき、当時の川島裕外務次官に「近隣諸国との関係改善をしてほしい」と言われました。そこで、小泉さんと何度も話し合い、中国と韓国を電撃的に訪問することにしました。中国では盧溝橋記念館、韓国では西大門(ソデムン)刑務所博物館を訪れ、小泉さん自らの言葉として村山談話に沿った歴史認識を語りました。このおかけで、中国と韓国との関係は、修復することができました。その後、小泉さんが靖国神社を毎年訪問したことで中国との関係は悪化しましたが、それでも関係がすべて途切れたわけではありませんでした。

 相手国の対応が気に入らないからといって、日本国内の世論に押されて強い態度に出ればいいというわけではありません。強い態度に出たとしても、最後はどのようにして外交の成果を出すのか。それがプロの仕事です。今の日本には、プロフェッショナリズムの精神が欠けているのではないでしょうか。

 外務省だけではありません。国内の世論を作るメディアや外交を担う政治家も十分な役割が果たせているのでしょうか。もっと中長期的な視点を持って、問題に対処してほしい。

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米朝首脳会談で日本孤立化の恐れ