「タイミングなんですよ。投手とのタイミング、自分の体とのタイミング。それが重なって、いいスイングができますから」

 時折、空振りしてしまうこともある。それでも大事なのは「体の動き」だ。1球ごとに自分の感覚を確かめながら、およそ30分にわたってこの練習を続けた。全く派手さのない、室内でのトス打撃。野手でも山崎勝己、小島脩平、安達了一に次ぐ4番目の年長選手となる31歳。プロ生活14年目を迎えた、かつての「若きキング」の円熟味が見えるような気がした。

「9年前ですよね。あの時の感覚はもう難しいです。体もあの時とは違います。ええトシになりましたけど、自分で“ベテラン”と言い出したら、終わりですからね」

 プロ5年目の2010年。タイミングがうまく取れず、変化球に対しても体が突っ込んで、空振り三振。その“もろさ”が目立ったT-岡田に、当時監督だった岡田彰布は「お前は当たったら飛ぶんや」と、開幕1カ月後に「ノーステップ」でのバッティングを命じた。これで悪癖は解消される。ただ、体の反動は使えない。飛ばないイメージがどうしてもある。それでも、T-岡田のパワーなら十分だった。少々詰まってもスタンドインした。シーズン終盤の9月、左太ももを肉離れしながら、代打で登場して満塁弾を放ったこともあった。22歳の若き大砲はその年、33本塁打を放ち、パの本塁打王に輝いた。

 その翌年、統一球の導入で打球の飛びが減少した。「あれ? 飛ばない。そう思った時点で、負けですよね。そこで、振ろうとしていた自分がいたんです」。一度乱れた感覚は、なかなか取り戻せない。タイトル獲得以降の8シーズンで、その「33本」を上回った年はない。一昨年の「31本」も、7年ぶりの“大台到達”。しかし昨季は、右脇腹のケガなどが響いて13本止まり。いつしか4番の座は、5歳年下の吉田正尚に奪われてしまっていた。

 このままでは、終われない──。

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地道な積み重ねの成果が見えた“1本”