■Apple独自のビジョンを定める時期が来ている

 iPhoneの販売不振は、ビジョナリーであったスティーブ・ジョブズ個人に紐づいて保たれてきた革新的な企業イメージが少しずつ減退してきていることを知らせてもいます。それは、Apple独自のビジョンやミッションを定める時期に来ているということでもあります。

<それは世界を変える革新的製品を追求したAppleのスティーブ・ジョブズが、その革新性にこだわり、デザインや質感、使い勝手などすべての面で一切の妥協を許さなかったということに似ています。Apple Store(アップルストア)のドアノブを何度も何度も満足いくまで作り直させたというのは有名な話です。逆にいえば革新的でないものはApple製品ではないという、かなり高い縛りを自らに設けたとも言えます。>※『THE VISION――あの企業が世界で急成長を遂げる理由』より

 Appleは革新的でない製品、洗練されていないデザインの製品を、世に問うことはできない企業です。それほどの枷(かせ)をスティーブ・ジョブズは、Appleという会社にはめ込んだのです。

 とすると現状のやり方では徐々に勢いを失うことは明白です。一人のAppleファンとして、そうなって欲しくないと強く思います。

 それには、どの方向に向かうのか、どういうビジョンで企業活動を行っていくのかを、ジョブズ亡き後、明確化する時期にあきらかに来ています。ビジョンのない企業は、行先も分からずに航海する船のようなものだからです。

 そして、Appleは、スティーブ・ジョブズに近いビジョナリーな資質を持った人間を雇い入れるのか、中から生み出していくのか。そうしたことに本気で取り組まねばならない時期にも来ているのです。今後数年のAppleの動きを注視しようと思います。(寄稿/ブランド戦略コンサルタント・江上隆夫)