さらに、ジョブズのように未来をイメージできて、それを技術に落とし込んで、かつ素晴らしい製品として生み出せる強烈な才能をもった人間はシリコンバレーといえど、そうは居ないでしょう。

■Appleは革新的企業であることをやめるのか?

 たとえば、2年に一度、モデルチェンジを行っているiPhoneは2018年秋に新型の機種「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」を発売しました。

 私は、このラインナップを見たときに思ったことがあります。それは、Appleは革新的な企業であることをやめようとしているのではないか、ということです。さらにITデバイスでのブランド化を意図しているようにも感じました。

 製品のブラッシュアップが電子機器でよくあるように「低価格、高機能」に向かわずに「高価格、高機能」に向かっています。ということは自社ブランドの価値を高く保ちながら製品を販売するスタンスです。クルマで言えばポルシェであり、服飾で言えばエルメスです。

 iPhoneは、デザインや価格からしたら、まさにスマートフォンのエルメスです。Apple Watchにエルメス製のバンドがあるように、ティム・クックはApple製品、Appleそのものの、さらなるブランド化、ラグジュアリー企業化に舵を切ったのではないかと感じたのです。もともとデザインの美しさ、製品の質感~触った触感、アプリの動き、視覚的な洗練は、スティーブ・ジョブズがこだわり続けたようにAppleは定評があるからです。

 しかし、この3機種の売れ行きは良くありません。1月29日のAppleの決算発表では、iPhoneの売り上げが前年同期比15%減という数字が発表されました。

 最新の「iPhone XS Max」512GBは日本円で16万4800円です。もはや電話の価格ではありません。売れない原因はいろいろあるのでしょうが、機能が行きついてしまった(つまり新規性がなく、機能としてはコモディティ化した)のに、価格は高騰している、ということに尽きると思います。ITデバイスのハイブランド企業というのは、この巨大な規模では成立しない可能性が高い。

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Apple独自のビジョンを定める時期が来ている