Appleの新型iPhoneの売り上げが不振だ。1月29日のAppleの決算発表では、iPhoneの売り上げが前年同期比15%減という数字が発表された。Appleという企業はこれから、どのようになることが想像されるのか。希代のビジョナリーであったスティーブ・ジョブズを失ったことが、今後どのように影響してくるのか。
【「Apple独自のビジョンを定める時期が来ている」と主張する江上さんはこちら】
ビジョンやコンセプトなどに詳しく、『THE VISION――あの企業が世界で急成長を遂げる理由』の著者でもある、ブランド戦略コンサルタントの江上隆夫さんに寄稿してもらった。
* * *
■ビジョンを持たないビジョナリーな企業 Apple
ここでは「ビジョン」という視点からGAFAの一角でもある、Appleのことを考えてみたいと思います。
Appleは、世界で初めて時価総額1兆ドルおよそ110兆円を超えた企業になりました。この2月の時点ではおよそ80億ドル、日本円で88兆円。マイクロソフトに次ぐ2位です。トヨタ自動車が17.4億ドルなので、ほぼ4.5倍以上の価値を持っているということになります。
この、とてもビジョナリーなイメージで、世界の最先端を行くブランドであるApple社には、明確なビジョンあるいはミッションのようなものが存在しません。試しにAppleのホームページで「vision」「Mission」ということばをサイト内サーチに掛けても、企業そのもののビジョンやミッションは出てこないのです。
欧米の企業は、こうした企業理念をとても大切にするので、そういう意味では、とても不思議な会社と言ってもいいでしょう。
■Appleはスティーブ・ジョブズのビジョン現実化のための会社
なぜ、ビジョンがないのか。
答えはシンプルです。スティーブ・ジョブズが居たからです。
言ってしまえば、Appleとは故スティーブ・ジョブズのイメージの内にあった、コンピューターが人々の生活を激変させる世界、つまり彼のビジョンを実現するために、その世界を構成するデバイスを、ひとつずつ製品として造り、販売する会社だったのです。少なくとも2010年頃までは。