友近がプロデュースしたキャラ、水谷千重子 (c)朝日新聞社
友近がプロデュースしたキャラ、水谷千重子 (c)朝日新聞社

 2月22日から3月4日にかけて、東京・明治座で水谷千重子の50周年記念公演が行われている。この公演は芝居のステージと歌のステージの二部構成。「とんち尼将軍 一休ねえさん」と名付けられた芝居のステージには原田龍二、YOU、高橋ひとみらが出演する。水谷が明治座で座長を務めるのはこれが初めてだ。

【画像】過去のリサイタルショーに登場したことがある豪華ゲスト

 演歌歌手・水谷千重子とは、芸人の友近がプロデュースするキャラクターの1人。圧倒的な歌唱力とお茶目な性格が売りの演歌界の大御所である。他愛もない冗談を言って「バカ言ってる」と自分にツッコミを入れるのがお決まりのパターンだ。

 友近が水谷を世に送り出したのは約7年前。最初はネタで演じていただけだったのだが、そこからキャラクターがどんどん独り歩きしていき、バラエティ番組や音楽番組に水谷が出演。さらに、CDもリリースされ、全国を回るライブツアーも開催されるまでになった。

 私も水谷千重子のライブに足を運んだことがある。会場は千人を超える観客で埋め尽くされていた。謎の演歌歌手のライブにこれだけの数の人が足を運び、芝居や歌のステージを見て拍手喝采を送る。出演者と観客が無言のうちに共犯的な関係を築き上げている異様な空間だった。

 友近は細部まで作り込まれたさまざまな人物を演じる「なりきり1人コント」を得意としている。その芸の原点は子供時代にまでさかのぼる。物心ついたときからお笑い番組、歌番組、ドラマが大好きなテレビっ子だった。当時の彼女の遊び相手だったのは実の姉である。姉と一緒に芸能人のものまねをしたり、設定を考えてアドリブで芝居をする即興コントごっこをしたりして遊んでいた。その頃から感覚が大人びていて、同年代の子供とはあまり気が合わなかった。『土曜ワイド劇場』などの大人向けのドラマに夢中になっていたという。

 幼い頃からの一番の夢は歌手になること。数々のカラオケ大会や歌のオーディションに出場していた。大学時代には『長崎歌謡祭』という長崎放送主催のイベントにも愛媛県代表として参加。これがきっかけで地元のテレビ局からスカウトされて、レポーターの仕事をアルバイトとして始めた。見た目に華があって器用な彼女は、すぐに地元では有名になった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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