しかし。

の家」の改装工事を見守り、完成を見届けたプリチャーさんは、肺炎をこじらせて入院。81歳の誕生日を迎えてすぐに、亡くなってしまうのだ。「いつも猫に寄り添い、猫とともに生きてきたような人でした」とチコさんは振り返る。

 それから、およそ1年がたった。

 すっかり改装を終えた「猫の家」は、ずいぶん様変わりした。新しい屋根で暑さが遮断され、猫たちも元気になった。

 涼しさを感じられるようになったのは人間も同様だ。いままではあまりの暑さにすぐ立ち去ってしまう人ばかりだったが、改装後はゆっくり猫と過ごす姿をよく見るようになった。誰もが猫たちの写真を撮って、SNSに投稿する。それを見て「猫の家」を訪れる観光客は少しずつ多くなっていく。結果として、募金が増えたのだ。

 日本人の訪問者も増えている。「猫の家」の近くには、水上マーケットで知られるアンパワーや、鉄道線路に沿って密集する市場で有名なメークローンがある。そんな観光名所と合わせてやってくる。「Chico」にも「猫の家」から譲り受けたシャム猫が9匹おり、観光客にも在住者にも人気だ。

 日本人の善意によって、とりあえずの修繕ができた「猫の家」だが、維持・運営はまだまだたいへんだ。タイを訪れる日本人観光客は年間150万人を超える。そのうちのわずかでも「猫の家」を訪れ、猫たちと触れ合い、置かれた状況を知ってもらえれば、希少な原産種の保護の一助となるように思うのだ。(取材・文/室橋裕和)