しかし、単に原種同士で交配させればいいというものではない。毛並みや健康状態などを見て、より濃く原種の血を持つだけが残されていく。とはいえ繁殖対象にならなかった猫たちだって大切だ。その保護もしなくてはならない。しぜん、猫はどんどん増えていく。猫を飼いたい人に譲り渡したりもするが、それでも130匹が暮らす。一方で施設はどんどん古くなる。熱を遮断できず雨漏りする屋根。おんぼろのケージ。餌代にもこと欠く。観光客からの寄付だけでは、運営はおぼつかない。このままでは原種が絶えてしまうかもしれない。

 タイの動物保護団体が寄付を募ってくれたりもした。TAT(タイ政府観光庁)が紹介してくれたこともあった。しかし猫たちが暮らす環境は老朽化が進み、資金面でも厳しい。なによりプリチャーさんは高齢だ。

「ある日、プリチャーさんから電話がかかってきたんです。ふだんは電話をしてくる人ではないんですが」(チコさん)

 施設は直さなくちゃならないところがたくさんある、猫たちが心配だ、もう自分も年だし……もしかしたら、自分の先行きになにかを感じ取っていたのかもしれない。プリチャーさんのそんな声を聞いたチコさんは、思い切ってクラウドファンディングをはじめることにした。

 目標は3つだ。断熱材を施した屋根。新しいケージ。それに当面の餌、ワクチン、トイレ用の猫砂の費用として、目標は50万円だ。

 バンコク在住の日本人もプロジェクトに手を上げた。プレゼン用のムービーや写真を撮影するカメラマン。資金提供してくれた人へのメッセージカードをつくるデザイナー。7万人の日本人が住むバンコクにはさまざまな人材がいるのだ。ムービーのナレーションを担当したのは、やはり猫好きで知られる、よしもとの「タイに住みます芸人」あっぱれコイズミさんだ。

 プロジェクトは大成功だった。

 大手ポータルに取り上げられたこともあり、目標金額をあっという間に突破した。ようやく猫たちが、快適に暮らせるようになる……。

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しかし…