まさしく、不屈の歴史をたどってきた。

 しかし“一昨年の激闘”が、思わぬ形で尾を引いた。投げると、投手は肩の筋肉に張りが出る。ある投手に聞くと、その張りは「傷口の薄皮のようなもの」だという。投げることで、薄皮を重ねていく。そうすることによって、投げるための筋肉を強化していく。しかし、投げ過ぎると、その薄皮が破れてしまい、傷口がまた露出してしまう。そうなると一から、またやり直しだ。投手の肩とは、それほどまでに、微妙で繊細なものなのだ。

 その大事な左肩が、どうもしっくりこないと感じたのが、昨年の宮崎キャンプの頃からだったという。

「いい張りが、全然でなかったんです。投げれば投げるほど、炎症が出る。こう、何と言うんですかね。“骨にぶつかってる”感じでした。投げれば投げるほど、悪くなる感じで、強く投げたら怖い、距離を伸ばそうとしても、伸ばせなかったんです」

 その“恐怖感”は、初めてだった。

 苦悶の中で、和田にとっての“復活への光”となったのは、同級生で、一昨年までのチームメート・松坂大輔の存在だった。松坂も右肩を痛め、メジャーから復帰後のソフトバンクでの3年間で、1軍登板がわずか1試合。ソフトバンクを自由契約となった後、中日にテスト入団を果たすと、1軍マウンドを勝ち取り、6勝を挙げて、見事にカムバック賞を受賞。

「肩を痛めても、この年齢で復活できた。自分も、大輔に続けるようにしたい」

 松坂の姿は励みでもあり、明確な目標でもあり、自らの復活を信じるモチベーションにもなった。

「大輔も、肩を痛めるイメージはなかったと思うんです。僕も、肘は3回手術していますけど、肩に関しては分からなかった。だから、いい勉強ですよ。経験しなくてもいいことなんですけど、いい経験です」

 俺も、もう一度、投げてみせる――。

 今季の年俸は、3億円減となる1億円。それでも、球団は和田へ“期待”をかけてくれた。「次、完全に痛めたら……というのはあります。そうならないように」。リハビリ、そして、復活への道のりは、決して易しいものではない。ダメなら引退。年齢的にも、その崖っぷちに追い込まれているのは確かだ。

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ゆっくりと前進を続ける和田