※写真はイメージです (Getty Images)
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「10年も働いているのに、なぜ育児休業が取れないのだろう」

 臨床検査技師の大木清美さん(仮名、38歳)は、自治体病院の臨時職員として働いて10年あまり。非正規雇用が置かれる待遇格差に疑問を感じている。

 専門学校を卒業した2000年は、専門職にとっても超就職氷河期だった。清美さんは人口10万人ほどの農業の盛んな地方で生まれ育った。地元で就職しようとしたが大きな企業があるわけでもない。就職活動をしても、とにかく地元には仕事がなかった。同級生が80人いたが、学校に来た求人はたったの1件。検査技師の募集1人の枠に対して200人もの学生が試験を受けに集まった。

 なんとか新卒採用で「内定」の二文字は獲得した。とはいえ志望していた医療現場の仕事ではなく、環境関連会社で検査の仕事に就いた。正社員ではあったが、月給13万円と薄給で、かつ、長時間労働だった。

「せっかく検査技師になったのに、ここで埋もれてはいけない。検査技師としてのキャリアを積めるよう、臨床現場の仕事を経験したい」と、ほどなく転職を決めた。

 病院の職員募集の情報を見つけては面接を受けにいった。地元で大きな病院の求人があったが、正職員の産休代替えのための1年限りの雇用だった。それでも面接に行くと、ライバルが5人もいたことに驚いた。「就職氷河期はまだ終わってはいない」と痛感した。その病院で採用され1年後、次の職場となったのが、現在働いている自治体病院となる。

 自治体病院の職員は地方公務員になるが、臨時職員としての採用で1日6時間勤務という条件だった。日給制で、退職金はない。結婚が視野に入っていたこともあり、「とにかく、臨床の仕事の経験を積もう」と、待遇面は目をつむるしかなかった。6か月ごとに契約が更新され続け、もう10年になる。

 その間、清美さんは3度の出産を経験したが、いずれも「臨時職員は育児休業を取ることができない」とされて、育児休業を取ることは叶わなかった。そもそも地方公務員の育児休業については、一般企業の労働者とは別に、「地方公務員の育児休業等に関する法律」によって定められている。同法によって、育児休業を取ることができる職員の範囲が定められ、6か月の雇用契約を前提とする臨時職員は最初から育児休業の対象外となっているのだ。

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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