そもそも、一日にアメリカへの便を日米の航空会社で24便も増やすだけの需要が本当にあるのかも大きな疑問だ。もしかすると、需要不足の分は空枠になったり、あるいは、アメリカの航空会社は、例えば、事実上の空枠になる分で、ニューヨークから羽田に着いた飛行機を北京に飛ばすというような使い方をして、日本-アジア間の航空需要を取り込もうとしているのかもしれない。現在行われている米中通商交渉で、米国の航空会社だけに一方的に日本から中国への乗り入れの増枠を認めさせるなどという交渉を並行してやっているのかななどとも勘繰りたくなる。

 そして、日米交渉では、驚くべきことに、アメリカは、4割でも満足せず、これをさらに5割まで増やせと言ってきたようだ。つまり、それを認めなければ、横田空域を数分間でも通過させないという、とんでもない理不尽な要求を押し付けてきたことになる。普通の独立国同士の交渉でこんな滅茶苦茶な要求が本気で出されることはない。最初のジャブの応酬の段階ならまだしも、日本が4割までという屈辱的譲歩案を出しているのに、それを蹴って、土下座しろと言わんばかりの要求をしたのだから、アメリカの態度は、まるで、占領軍そのものと言っても良いのではないだろうか。少なくとも、今わかっていることからは、そういう評価しか出て来ないように思える。

 ちなみに、この交渉は、悪名高き「日米合同委員会の分科会」などで米軍が主役となって行われたそうだ。もちろん、交渉の経過などは一切公開されず闇の中だから、当分の間は、今述べた話を立証していくことは難しいかもしれない。

 やはり、日米地位協定を根本から問い直さないと、日本は安全保障だけでなく、経済の主権まで、その重要な部分を米軍に牛耳られている状況から抜け出せないことがあらためてはっきりした。特に、現在は、トランプ大統領と安倍総理という組み合わせで、地位協定の弊害が極致にまで達することが様々な形で証明されつつある。

 トランプ大統領が「アメリカファースト」と叫ぶのはまだわかる。品がないとはいえ、歴代アメリカ政府の本音を包み隠さず口にしただけだ。

 しかし、安倍総理の外交とは何なのか。まるで「アメリカファースト」が日本の国益であるかのような振る舞いではないか。ただ言いなりになって、利益供与するだけなら誰でもできる。それで、「晋三はいいやつだ」と言われて喜んでいるのなら、子供同然だ。

 弱小野党に対しては、口汚くののしる「勇気」があっても、大ボスには尻尾を振るだけしかできない。そんな総理が日本のかじ取りをしている限り、日本の真の独立も経済的自立もあり得ない。

 そして、今回もまた、日本の大手メディアに苦言を呈さずにはいられない。本来は、どうしてアメリカ路線をここまで優遇するのかということを取材して報じるべきだろう。交渉の真相が明確にならなくとも、大きな疑問があることくらいはわかるはずだ。

 意図してかどうかはともかく、彼らが政府の発表をそのまま垂れ流す、大本営発表下請け広報機関の役割を担っていることが再び明らかとなった。本当に日本のマスコミを何とかしなければ、日本は、国の進路を誤ることになるだろう。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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