家族とも話し合い、寺原は「現役続行」にこだわることを決めた。捨てる神あれば拾う神ありとは、よく言ったものだ。戦力外を告げられて数日後、早速、ヤクルトからのコンタクトがあった。入団が決まると、小川淳司監督からは「先発で」と起用法まで告げられたという。「去年はハナから中継ぎ。その前年はキャンプに入ったときに『どちらでも行けるように』と言われていたから、最初から『先発』って言われたのは久々ですね」

 2月6日、第2クール初日。

 休み明けのブルペンに入った寺原は「肩のスタミナをつけたい」と、今年初となる“100球超”を果たした。「バテてきたときにどれくらい、うまく投げられるか。ブルペンで球数を投げないと試せないですから。できれば、もっと多く投げる日を作りたい」と投げ込み重視の狙いを明かしたのは、まさしくこの時期から「先発」という役割を明確に与えられているからこそだ。

 その期待感が、たまらなくうれしい。

「プロに入った時は先発、ソフトバンクでは中継ぎも、谷間の先発も、両方やってくれという時もあった。でもここへ来て、先発で行くと言ってもらえて、すごくうれしい。自分の中でも、すごく楽しみなんです」

 その寺原が、視線の先に見据えた“目標の背中”は2人いる。今季から同僚になった39歳のベテラン左腕・石川雅規は2001年のドラフト同期入団。「4歳違うのに、超元気なんですよ。だから、石川さんに負けないように。そういう思いがありますね」

 そして、もう1人は「あの人を見て、本気でプロになりたいと思った」という高校時代からの憧れの存在・松坂大輔。ソフトバンク時代、一緒に汗を流した3歳年上の松坂が右肩痛に苦しみ続け、新天地・中日で昨年6勝を挙げた姿は、まさしく、自らがこれから目指す“復活ロード”でもある。

 中日のキャンプ地は北谷、ヤクルトは浦添と、同じ沖縄本島で車なら15分程度しか離れていない距離。「一回くらい、沖縄できっと、ご飯に連れて行ってくれると思っていますよ」と笑いながら、松坂へメッセージを投げかけた。話すこと、伝えたいこと、聞きたいことは、ホントにたくさんあるのだ。

「こうって一回戦力外になって、落ちるところまで落ちた。もう、怖いもんなしですよ」

 チャンスをもらった。これを生かすも殺すも、まさに自分次第。だから、寺原の覚悟も半端なものではない。

「1年勝負。そういう気持ちはありますよね。自分で『やっぱりダメだ』と思えば、自分で引退します」

 腹をくくった男は、たくましい。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。