何度か海外ひとり旅も計画はしてみたものの、結局挫折して、友人に付き合ってもらった。

「おひとりさま」は、やはり、さまになる人とそうじゃない人がいるような気がする。人から「寂しい女と見られたくない」などと気にしているうちはダメなんだろうな。

 そんなことをつらつら考えていたとき、恋人と偶然入った飲食店で左右のテーブルが女性一人客だった。対象的だったのは、右隣の黒いワンピースの女性が淡々と食事を済ませて、コーヒーが出てきたらすっと文庫本を取り出して読み始めたのに対し、右隣の赤いセーターの30代前後とおぼしき女性は食事の間もずっとスマホにかじりつきでSNSをしているよう。あげくには電話のスピーカー機能で誰かと話し始めた。相当ガヤガヤした飲食店ではあったが、席で携帯で話すというマナーのなさにはちょっと驚いた。パッと見にはひとりごと言ってるへんな女性みたいにも見える。

 彼女のようなひとは真のおひとりさま上手とは呼べない。スマホを通じて繋がり続けていないと不安な彼女は、その店内で誰よりも寂しくうつった。黒い服の女性は、もう若くはなかったが凛として恰好よく、静かにコーヒーを飲み干して文庫本をカバンに放り込んで颯爽と出て行ったのは同世代としてもなんだか嬉しかったなあ。

 先日、五木寛之先生があるテレビ番組で「孤独と孤立は違う」ということを話されていたのを聞いたが、孤独の時間に己ときちんと向き合える人間に成長できれば、「おひとりさま」で行動することになんの躊躇いもなくなるはずだし、むしろ楽しむことができるはずだ。「他人の目」から寂しい女にうつりたくない、などという自分の幼稚なメンタルをいまからでも修正できれば、ひとりの老後を楽しむレッスンになるやも。まずは、山折哲雄先生の『「ひとり」の哲学』でも読み直そう。そして、その本を片手に地方の競輪場のある温泉にひとり旅打ちに出かけてみるところからはじめてみよう(なんかビミョーに違う気も?)。

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中瀬ゆかり

中瀬ゆかり

中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、 作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに。

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