昨年から大きく動き始めた朝鮮半島情勢は、今でも激変の最中だ。2月下旬には、2度目となる米朝首脳会談も計画されている。

 日本としては韓国との関係がこれ以上悪化すれば、変化する国際情勢に取り残される危険がある。すでにトランプ米大統領は、北朝鮮の非核化プロセスで発生する費用について、記者会見で「韓国と日本が大いに助けてくれる」と公言している。今後、日本抜きで交渉が進めば、日本が知らない間に莫大な非核化費用を負担することになる可能性もある。文氏ももちろんそのことは想定済みだろう。辺氏は、今後の日韓関係の見通しをこう話す。

「文氏は、韓国国内で盛り上がる反日感情をある意味で放置している。安倍首相も一度振り上げた拳をおろすことは難しい。韓国側の読みでは、今後、南北首脳会談や米朝首脳会談が実現すれば、北朝鮮への経済制裁が緩和される可能性がある。『そうなれば日本は韓国に歩み寄らざるをえない』と考えているでしょう」

 日本国内では、政治家もメディアも「金正恩との交渉が成功するはずがない」といった観測も目立つ。過去にも、北朝鮮の非核化は一時は順調に進みながらも最後には頓挫してきたからだ。しかし、仮に非核化のプロセスが進展すれば、日韓関係の悪化は日本に不利に働く。一方で、今回の日韓対立は、これまでとは違って日本の方が「過去の約束が破られた」という被害者意識が強い。解決の兆しすら見えないのが実情だ。辺氏も「元の状態に戻るには相当な時間がかかる」と見ている。

 出口の見えない日韓関係の悪化に、洪氏はこう話す。

「日本と韓国は、歴史的にも現実的にも切っても切れない関係にある。だからこそ、両国とも『好きか嫌いか』で場当たり的な応酬をせず、文明史の視野に立って付き合わなければなりません。だって、夫婦も兄弟でもいつもうまくいくわけではないでしょう。国家同士ならなおさらです」

 感情の対立を続けていては、やがて日本の国益が失われる。国際情勢の変化に対応する新しい戦略が今、必要となっている。(AERA dot.編集部 西岡千史)